結界対者 第三章-22
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「……間宮っ!?」
それは、Tシャツにハーフパンツという、如何にも部屋着といった姿の間宮セリ、本人…… だった!
「んんっ? 柊っ……? あんたが先に来てるなんて珍しい…… それにここ、どこなの?」
困惑する間宮を見ながら、俺はなんとなく理解する。
先ほど焔の大石に、あのガーゴイルが触れた、だから間宮の中にある「対者としての機能」ってヤツが、忌者が来た時と同じ反応を示して……
この場所へと結果的に導かれてしまったという事を。
「いつもの、襲来が迫る感覚は確かにあったけど…… こんな、いきなりなんて。
しかも、ここ、結界じゃないじゃない!」
「いいや、セリ! ここは結界だよ! 焔の大石を、あの祭壇の頂上に私がセットした」
樋山が、笑みの消えた眼差しで言い放つ。
「樋山…… 何であんたが! それに柊もっ!」
「そろそろ、君も来る頃だと思っていたよ、セリ」
そろそろ? コイツ……
「樋山さん、アンタ、間宮が此処に導かれるって、解ってたんですか?」
「当たり前だろ? 結界に使い魔を干渉させるんだ、導かれない方がおかしい」
畜生、間宮の気持ちも知らないで!
「ごらんセリ! たった今、結界の一つが消え逝こうとしている」
「樋山? アンタ、何を……」
言いかけた間宮も、先程の俺と同じく、中庭の見える大きな窓辺へと走る。
そして
「ちょっとっ! 何よ、コレ……」
窓辺にに辿り着くと、驚愕の声を漏らした。
「あのガーゴイルに、今から焔の大石の力を全て吸収させる」
「やめて!」
「駄目だ、これが成功すれば、私は同じ様に他の結界にも適する使い魔を干渉させて、全ての結界を消滅させる! そしてこの、災いの連鎖に終止符を打つのだ!」
樋山の気迫が部屋中に響き、俺はどうする事も出来ずに、ただ立ち尽くす。
しかし、間宮は暫く黙った後、うつ向いたままで胸の前に右手をかざし
「お願いだから、やめてよ」
と、呟いた。
と、同時に、その右手に白銀の短銃「赦しの小筒」が浮かびあがる。
「無理だ、もう止められない」
「でないとアタシ…… あんたを撃たなきゃならなくなる」
言いながら顔を上げ、その銀色の短銃を構えた赤い瞳が、鋭い煌めきを放つ。
しかし樋山は動じず、先程の姿勢のまま言葉を続ける。
「セリ、どうか最後まで見てほしい。 私は自分の宿命を終わらせたいのと同じ様に、君の死ぬまで戦い続ける宿命を終わらせたいのだ。君のそれは悲しくて仕方がない…… 結界さえ消えれば……」
「関係ない!」
「……?」
「関係ないのよ、アンタの自分自身の宿命を恨む気持ちも、アタシの戦い続ける宿命も! そんな簡単な事じゃないの! だから…… 」
間宮が言い終えようとした、その時!
突然、中庭に面した窓が、刹那の閃光を放った!
それと同時に、激しい振動と轟音が、この部屋の全てを襲う!