結界対者 第三章-21
「……?」
「いや、逆に言えば、そうでなくてはつまらない。
しかし今、私には君とやり合ってる暇は無いのだ ……窓の外を見たまえ!」
樋山の言葉に、視線を窓の外へ移す。
「……なんだっ!」
そこには、塔の頂上に両足を据えて佇む、先程の画面に映し出されていたものと同じ、巨大な竜の姿が在った。
それは、熱を帯た鋼の様な紅黒の翼を畳み、静かに瞳を閉じたまま、その脅威を見せ付けている。
「こうなる事も、考えていなかった訳ではなくてね、イベントの開始を少し早めに設定しておいた」
「樋山さん、アンタ……」
その言葉に、再び拳を固める。
「おっと、今此所で私を倒しても、何も止める事は出来ないよ?
なにしろ、もう始まってしまっているのだから」
「くっ……」
思わず窓際に駆け寄り、その全てに目をやると、既に塔の下には大勢の来場者が集まっていた。
人々は頭上の竜を見上げ、それを良く出来た造りモノだと信じきった眼差しで、感嘆のどよめきを上げている。
「さあ、ショータイムの始まりだ」
樋山が呟く……
と、その時!
この部屋の中全体に「ドスン」と何かが落ちた様な鈍い音が響き渡り、直後に
「痛ったぁぁい、何よ、コレ! こんな時間に導かれるなんて、今まで無かったのに……」
聞き覚えのある声が響いた。