結界対者 第三章-20
「現在、私の活動の全てをバックアップしてくれている組織だ。
そして、それは、今夜のイベントにも当てはまる。
柊君、これを見たまえ」
樋山は言いながら、オフィスの一角にある大きな画面を指さす。
すると、そこには、まるでファンタジー物の映画の作中に現れる様な、翼の生えた巨大な竜の様な生き物の画像が映し出された。
「……これは?」
「我がジルベルト・ヨーロッパが開発し精製したガーゴイルだよ」
「……!?」
「最大魔導出力75000mbP、許容魔導出力12000mbP、焔の大石の持つmbPが推定で9800だから、こいつなら余裕で全てを吸収し、結界を消滅させる事が出来る」
「まさか!」
「そう、今夜は祭壇の頂上に舞い降りたガーゴイルが、この街にかけられた呪いの一つを消し去ってくれる!
人々は、この派手なアトラクションに、驚愕しながら喝采を贈る事だろう。
まさか、本物のガーゴイルが舞い降りたとも知らずにね」
樋山は昨日言った。
こいつは、表向きにはオープニングセレモニーだが、実際はある存在に結界を融合させて消滅させる重要な儀式となる、と。
「樋山さん……」
「ん、何だね、柊君」
「俺、昨日、サオリさんに全部聞きました」
「何を?」
「樋山さんは俺に、結界の事を災いを呼ぶ元凶だから消すと言っていた。
しかし、御両親を消された事や、自分自身の対者としての宿命に対して思いは語らなかったかった」
「……確に、それもあるさ。しかし、今は……」
「どっちにしろ……」
「……?」
「悪いけど樋山さん、今夜のイベントは中止して頂く! そして焔の大石は、元の場所に戻して貰いますよ?」
「何故……かな?」
「樋山さん、俺はね、よくわからないけど、結界ってヤツが、そんな簡単なモノには思えないんですよ。
それに、アレは間宮や俺のお袋、そして今まで対者として生きてきた人々が、命を賭けて守ってきたモノだから」
それを言い切った途端、それまで穏やかだった樋山の表情が瞬時に険しくなった気がした。
それを見逃さなかった俺は、同じく瞬時に拳の周りに風を集め始める。
「それは、力ずくでも、という事かい? 柊君」
「ええ、勿論」
部屋中全てに緊張が走り、俺の拳に蓄えられ始めた風が、ビリビリと音を立てて唸り始める。
いつでも、やれる!
そう思った、その時。
樋山はニヤリと顔を崩し、掌で顔を被いながら
「クックックッ、君は面白いね」
と、笑い始めた。