結界対者 第三章-19
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挨拶もそこそこに、樋山は男達にこの場から離れて持ち場に戻る様に言い渡すと、俺を建物の奥にあるエレベーターへと導いた。
そして、それに互いに乗り込むと、最上階のボタンを押しながら
「ここの一番上はね、私のオフィスになっているんだ」
と、はにかみながら笑う。
「ああ、すごいんですね」
別に、そうは大して思わないが、返事といえばこれくらいしか思いつかない。
大体、改めて感じるが、俺は苦手なのだ、このタイプのキザな輩は。
やがて、エレベーターが停まり滑る様にドアが開くと、いかにもといった感じの、黒を基調にインテリアを揃えた洒落たオフィスと、その彼方の広い窓の外に広がる風景が目の前に現れた。
「なんだ、これ……」
「気が付いたかい? 建物の真ん中は、吹き抜けにしてあるんだよ」
違う、確かに俺は、窓の外を見て思わず呟いた訳だが、それはそこが吹き抜けの中庭になっていたからではない。
問題は、そこに設けられた、祭壇の様な塔だ。
「何です、あれ……」
「ふふ、今夜のイベントの主役、焔の大石さ」
「……!?」
驚きのあまり声を失う俺を横目に、樋山は煙草を取り出し、それをくわえながら続ける。
「あの塔の先端に、焔の大石を元の社より移設した。今夜のイベントの為にね」
「……何を、やろうっていうんです?」
確か樋山は昨日、ある存在に結界の力を吸収させる様な事をほのめかしていた。
その為に、焔の大石を…… 以前、間宮と俺が空を飛んだ、あの社の場所から持って来たというのか。
「その話をする前に、君にこれを渡しておこう」
そう言いながら、樋山は一枚のカードの様な物を差し出す。
「この前、渡しそびれたからね」
「これは……?」
「ご覧の通り、名刺だが?」
そうじゃない、そのカード…… つまり名刺を俺に渡す意味を訊いている。
だが、樋山は俺に構う事なく
「改めまして、ジルベルト・ファー・イースト代表、樋山セイジだ」
堂々と、それを差し出しながら、言い放った。
「ジルベルト、ですか」
「あまり、聞かない名前だろ?」
「いえ、そんな事は…… 俺、あまりそういうの、詳しくないし」
「いや、いいんだ、なにしろ秘密結社だからねぇ、ふふっ」
「……馬鹿にしてるんですか?」
ったく、特撮ヒーローモノの敵役じゃあるまいし。
「馬鹿になどしてないよ。我がジルベルトグループは、御覧の様に表向きは娯楽施設をワールドワイドに提供させて頂いているが、実際は西洋呪術や魔導技術の研究を行っている」
「西洋…… 呪術?」
思い出した、確かサオリさんが昨日言っていた。
そして、樋山自身も、それらしい事を言っていたのだ。
西洋呪術を応用して、自らの体内から対者としての機能を消し去った、と。