結界対者 第三章-15
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沈みかけた夕陽が、街の全てに斜めの陰を落としながら、朱色の輝きを放ち一日の終わりを告げている。
夜への入り口が開こうとしている、そんな見張らし台の端の手摺にもたれ、ポツリと間宮は佇んでいた。
別に、探していた訳ではないから
「よう」
と声を掛け、ここに来る途中で、うっかり二本買ってしまった缶コーヒーを、一本差し出す。
「柊……」
振り向いた間宮は、力なく溜め息をつくように、それに触れ
「どうしたのよ?」
と呟いた。
「どうもこうもねーよ、放課後は店に来いって言ってた癖に、一人でさっさと帰っちまってさ?」
「……ごめん」
「らしくねーな」
「……うん」
頷いた間宮は、再び視線を街の方へ戻すと、虚ろな面持ちのまま、少しづつ言葉を並べ始める。
「あのね、柊……」
俺は、何も言わず、ただ間宮と同じ様に、街の風景に視線を移し、手摺にもたれて耳を傾ける。
「アイツ、対者だったんだ」
「……ああ」
知ってるさ。
「凄く強くて、カッコよくってさ? いつもアタシの事を助けてくれてさ……」
「……」
「最高だったわよ、そしてこんな毎日が、ずっと続けば良いと思ってた」
「……そうか」
「アイツとアタシは、かけがえのない使命の為に戦い続ける…… ずっと、このままずっと…… そう思っていたの」
「ああ……」
「でも、アイツは違った。 あのね、ある日突然、忌者を呼び寄せているのは結界なんだから、それ自体を無くしてしまえば良いって言い出したの」
「……」
「私は、結界を守る為に生まれて来たのよ!それはアイツも同じ筈…… それなのに……」
間宮……
「もういい」
なんとなく、そう言ってしまったのは、隣にある小さな肩が、少しだけ震えてるいる気がしたから。
それに、先程のサオリさんの言葉を、何となく思い出してしまったからかもしれない。
初恋の人…… か。
喋るのを止めた間宮と、頷くのを止めた俺の周りを、夕暮れ時の冷えた風が悪戯に過ぎ行き、訪れた硝白の静けさに彼方から微かに聞こえる電車の走り去る音が、そっと色を付けていく。
「なあ、間宮」
「え?」
「それ、冷めるぞ?」
先程置いた缶コーヒーを視線で指すと、間宮はそれを手にとり
「うん」
と頷きながら、プルタブに指をかけた。
そして、それに軽く唇で触れると
「美味しい……」
消え入りそうな声で呟く。
まったく、この前は香料臭いだのなんだのケチを付けていた癖に。
同じモノだぜ? それ。