結界対者 第三章-14
「そうでしたか。いや、長々とすいませんでした」
「? ……イクト君?」
我ながら、少々強引かと思いながらも、話を切り上げて立ち上がった俺を、サオリさんが瞳を丸く見上げる。
別に用件が済んだからそうしただけ。
早速、間宮を探しに行こうなんて思っちゃいない。
「また、ゆっくりと寄らせてもらいますよ。今日はちょっと、他に寄る所があるんで」
軽く会釈、そして踵を返し、店の外へと靴先を向けると
「あのね、イクト君……」
サオリさんの呼び止める声が、背中から響いた。
「はい?」
「イクト君は…… 樋山君の話を聞いて、どう思った?」
「……?」
「例えば…… 例えばよ? もしかしたら、樋山君の様にすれば、自分も結界に関わらなくて良くなるとか……」
サオリさんが、伏し目がちに、必死に言葉を探しながら問掛けている。
なんとなく、何を言わんとしているのかが解る気がするから、俺は躊躇わずに答える。
「別に、どうって事ないですよ。サオリさんは対者の事を、俺にしか出来ない事だと言った、だから俺がやる、ただそれだけです」
「……そう」
「では、また来ますね」
少々の安堵を見せるサオリさんに、軽く微笑んでみせながら、街へと駆け出す。
ふと背中から
「セリを頼むわね」
と聞こえた気がしたけど、振り返らずに走る。
そして、このまま、あの見張らし台まで行こうと思うのだ。
別に、間宮が居るかもしれないとかじゃない、ただ少しだけ遠回りをして帰りたくなっただけさ。