結界対者 第三章-13
「ええ、でも、何か思うところがあった様で、いくらも話をしないうちに、何処かに行ってしまって……」
「そう、無理もないわね」
「ねえ、サオリさん、樋山って何者なんです?」
「そうね、イクト君の聞いた通り、焔の対者だった人で、セリの……」
「間宮の?」
「初恋の人、かな?」
……間宮の!?
驚いた!
いや、アイツは、そういうものには無縁だと思っていたし、なんと言うか、その……
「あははっ、イクト君たら……」
思わず黙ってしまった俺を見て、サオリさんが突然笑い声をあげる。
「な、どうしたんです?」
「だって、イクト君の今の顔……」
そんな、変な顔をしてたか、俺……
「うふふっ、ごめんなさい。樋山君はね? かつては焔の大石の対者として、セリと一緒に戦っていたのよ。
とても強くて、優しくて、セリの面倒も良くみてたわね」
「そう、ですか……」
「丁度、今から二年位前の話ね? セリは十五歳で彼は十八歳だった。二人はまるで兄妹の様で…… セリは彼と一緒に戦える事を誇りにしてたわ。でも彼は……」
「そうではなかった、と?」
「いいえ、それ以前の問題ね。彼は恨んでいたのよ、全てを」
「……?」
「自分の両親を消し去った忌者、それを呼び寄せた結界、そしてその結界の為に戦わなければならない自分の宿命をね」
「両親を…… !?」
「そう、彼は忌者との戦いで両親を消されたの。殺されたのではなく、消されたのよ。
この違いは、もう解るわよね?」
人は死んでも、その実体さえ在れば、刻転により時間を戻して生きていた頃の姿に戻す事が出来る。
しかし、消えてしまったものは、絶対に元には戻らない。
これは、忌者に至っても同じ事で、だからこそ俺達は忌者と戦う時、敵を消滅させる様に戦いを運ぶ訳だが。
「そんな日々が続いたある日、彼は自分自身を対者としての役目から解放する、ある方法を見付けてしまったの」
「! ……そんなものが?」
「よく判らないけど、あったらしいのよ? 何か、西洋呪術を応用するとか……」
そういえば、さっき樋山は、自分は結界から解放されたと言っていた。
忌者が結界を襲っても、樋山が導かれなかったのはそういう事…… なのか?
「やがて彼は、その西洋呪術を本場へ学びに行くと言い出して、日本を離れた。
考えてみれば、この時点で、彼は対者ではなくなっていたのよね。
忌者が現れても、二度と結界に導かれる事も無かったし、連絡も途絶えてそれっきり」
「……間宮は?」
「あの娘、ガラにもなく毎日泣いてたわよ。でも、なんとか立ち直って、今に至る…… って感じかしら」
なるほどね……
それなら、先程の間宮の様子にも納得が行くってもんだ。