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結界対者
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結界対者 第三章-12

―5―

「いやっしゃいませ…… あら、イクト君! ……一人?」

 樋山と別れた後、その足でタイムベルに寄ってしまったのは、樋山についてサオリさんに詳しく訊こうと思った事以外の他にない。
 それと、不自然に、まるで逃げ出す様に走り去った、間宮の事も気になっていた。
 なにしろ、間宮があんな顔をするのを俺は初めて見たし、間宮と樋山の二人の過去にも、何かあった様な感じだったから……
 いや、別に、そういう意味で気になる訳じゃない。
 あくまでも、同じ対者として、だ。

 どうやら今日は、というよりこの時間は店は暇らしく、店の中に居る客は俺一人の様で、適当な席を選び腰を下ろすと間もなく、サオリさんが手元にコーヒーを差し出した。

「あ…… 」
「いいの、サービスよ」
「ああ、すいません」

 軽く会釈をし、テーブルの端の小瓶からすくいだした、少量の三温糖をカップに静かに落とし、かきまぜる。

 さて、何から切りだせば良いものか……

 くるくると回る、カップの中に視線を落としながらボンヤリと考えていると

「なあに? セリとケンカでもした?」

不意に、柔らかなサオリさんの声が、すぐ側から耳に触れた。

「あ…… いえ……」
「あら、違うのかしら…… 一人で来て、浮かない顔をしていたから。フフッ」

 ケンカか……
 なんだか、そっちの方が簡単で、まだマシだった気がする。
 それに正直、今はそれどころではないのだ。

「……サオリさん」
「ん、なあに?」
「俺、樋山ってヤツに会いました」

 それを口にした途端、サオリさんの顔から、一瞬いつもの優しさが消えた気がした。
 だが、それは本当に一瞬で、すぐにいつもの表情に戻ると

「……そう」

と微かに頷き、

「彼、元気だった?」
と言葉を続けた。

「元気だったのかどうか…… あの人の普段を知らないんで、何とも言えませんが、色々と話をしました」
「色々?」
「ええ、自分が焔の大石の対者だったとか」
「対者だった、か……」

 再び、サオリさんの顔から、笑みが消える。
 そして、その代りに今度は、何処か切なげな何とも言えない表情がそこに宿り、それは俺に続けようとした言葉を飲み込ませた。
 沈黙が続き、店の壁に架けられた時計の秒針の音だけが、やたらと鮮明に響く。
 そのまま、暫く……
 やがて、サオリさんは、うつ向いていた視線を再び此方に向け直すと

「セリも、一緒だったの?」

と静かにその沈黙を破った。


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