結界対者 第三章-11
静かに、激しく言い放つ樋山に、俺は返す言葉を探す事も出来ない。
しかも、言われてみれば確かにそうなのだ。
大体、そもそも結界って何んなんだ?
確か間宮と、間宮の姉さんは、その昔にこの辺りの人々を救った偉い坊さんの力を封じたのが結界だと言っていた。
そして、それらを守る為に、特別な力を授けられたのが、俺達対者……
つまり樋山の言う通り、結界さえなければ対者なんてのは必要無くなるし、この街に忌者が来る事も無くなるって訳だ。
だが……
そんな簡単なモノなんだろうか?
500年近い時の間、様々な人々によって、代々守り続けられて来たんだぜ、結界ってヤツはさ?
当然、その中には俺のお袋や、間宮の姉さんもいた訳で、それら全てが樋山の言う通りに道化だったとは、とても思えない。
「いや、樋山…… さん、俺は……」
「いや、急に混乱させる様な事を言ってしまって申し訳ない。
明日だ、明日の夕方、七時からイベントを開始する。
こいつは、表向きにはオープニングセレモニーだが、実際はある存在に結界を融合させて消滅させる重要な儀式となる」
「馬鹿な! ……そんな事が?」
「可能なのさ。現に私は、対者としての機能の殆んどを、この体から消し去る事に成功しているんだよ?」
樋山はそう言いながら背中を向けると「明日、待ってるから」と言い置いて歩き出した。
「まだ、行くとは言ってないですよ?」
一方的にやりこめられたからだろうか、思わず悪びれてしまう俺に、そのまま背中で手を振りながら歩いて行く。
やがて、車に辿り着いた樋山は、それに乗り込みながら、
「いや、君は来るよ」
と、静かに、しかしはっきりと此方に聞こえる声で、決まりきった事の様に言い残すと、瞬く間に走り去って行った。
さて、どうしたものか……。
見上げた空には、校門前の街路樹が、ただ微かに揺れていた。