『桜道』-1
『懐かしいな』
どこまでも続く桜道。
今は、あの日のピンクなんてどこにもないけれど。
あたしの隣にはあなた。
それを知ってか知らずかの言葉。
『なにが』
やっぱあなたは怒る。
『…なにも』
あたしは少し笑ってあなたの肩にもたれ掛かった。
あの日、あたしの隣にはあなたがいた。
今はもういない、あなた。
いつも一緒で、ピンクの中を離れないように手を繋いで歩いた。
会話なんてなかった。
ただ、隣にいてくれればそれでいい。
『結婚しようか』
その日もピンクが眩しくて。
あなたの顔に桜の花びらが。
あたしはそれを笑いながら指でつまむ。
『なに?いきなり』
笑うあたしと真顔なあなた。
そんな話はしたくない。
『したくない?』
『うん…どうだろ』
それでも、笑っているあたしにやっとあなたが笑った。
『ほんとに、素直じゃねぇ』
一緒に住んでたあの部屋。
狭かったけど、桜の綺麗な場所だった。
でも、桜が散り始めた頃、あたしの気持ちも散り始めた。
『…どこ行くの』
仕事から帰ってきたあなたの冷たい声。
『友達のとこ。ご飯作っといたから』
夜から出かけるのが多くなった。
別にあなたの事嫌いになったわけじゃない。
ただ、あたしはあなたと同じくらい友達が大事だった。
ピンクの花びらが降らなくなったあの夜。
あたしは出会ってしまった。
あなた以外の、男の人。
『付き合って』
夜の道を走る車。
対向車のライトが眩しくて。
あたしはその人に心奪われていた。
『あたしも、好き』