『桜道』-2
あなたはあたしを責めなかった。
あの狭い部屋であなたとあたし。
これが最後なんだと思っても涙は出ない。
あなたとは春のピンクの中で生きてきたから。
わがままだけど。
どうしようもない女だけど。
他の男のところに行ってしまう女。
それでも、俺はお前の事好きだった。
あなたの言葉を背中で聞いて重いドアを閉めた。
あの桜道。
茶色の葉がはらはらと落ちる今。
あなたの声を聞いた。
『久しぶり』
『うん、どうしたの』
こんな声だったっけ。
聞き慣れない声に不安がよぎる。
『元気かなと思って。彼氏とは順調?』
『うん、順調』
『そっか』
あなたと一緒にいたから何となくわかる。
何かを言いたいんでしょ。
『彼氏と別れねぇの?』
『別れないよ。大好きだもん』
『別れたら、戻って来いよ』
一瞬、桜が見えた。
あなたと桜のピンク。
『ずっと、待ってるから。俺はここから動かずに待ってるから』
『寂しくなったらいつでも戻って来い。抱きしめてやる』