飃の啼く…第12章-2
クリスマスは好き。街が一番奇麗に見える季節だから。
キリスト教徒でもないのに、日本人がクリスマスを祝うのは変だという人も居る。でも、私は気にしたことは無い。日本人というのは兎角お祭りが好きだし、それを言うなら七夕や端午の節句だって、もともとの発祥は中国だろう。なんにせよ、何かを祝ったり、誰かのことを想う気持ちに宗教なんて関係あるものか。クリスマスの醍醐味は、誰もが、誰かのために贈り物を選ぶこと。そしてそれがまた楽しいのだ。クリスマスの無い冬なんて、もちの入ってない雑煮と一緒だと思う。
飃の村の子供たちに、みんなで遊べそうな玩具を送ろう。颪さんには、しゃれた帽子。夕雷には、毛皮の手入れ用に櫛を…(ペット用)というパッケージはもちろんはがしてから。あの可哀想な男の子には、私が大切にしていた本を贈ることにした。朔には、氷雨にあげたマフラーとおそろいのを。氷雨には、雪の結晶のペンダント。
それら全てを宅配してくれるカジマヤサンタには、奇麗な小刀をあげよう。
「飃は…クリスマスなんか興味ないだろうけど…」
それでも、何か贈ってあげたい。
クリスマスまでの長い3日間はどうにかやり過ごした。私は隠し事が苦手なので、誰かに秘密でプレゼントを用意するのは向いて無い。すぐにばらしてしまいたくなるのだ。でも、今回はわれながら良く我慢したと思う。こみ上げる笑みを抑えながら、ケーキにクリームを絞った。甘いものも案外いける口の飃だが、ケーキは今夜が初挑戦だ。どんな反応が返ってくることやら…
「じゃーん♪」
部屋の明かりを消して、キャンドルに火をつける。暖かいキャンドルの光に照らされて微笑む飃は…すごくセクシーに見える。たとえ事実は、浮かれている私を見てニヤニヤしているだけだったにしても。
ちょっとどぎまぎしながら、食卓に運ぶ。テーブルには、ケーキと、本物のシャンパン(颪さんがくれたものだ)。オレンジ色の光が、シャンパンとグラスの中に閉じ込められた妖精のように、ゆらゆらと揺らめいている。今夜は全てが…魔法のよう。
「たべよっか?」
自分でセッティングしておいて、恥ずかしくなってしまう。私がナイフで切り分けるのを見守っていた飃が、切り出した。
「さくら?」
「はひ?」
指についたクリームを舐めながら答える。われながら色気が無い。そんな私に、飃は小さな箱を取り出した。
「あ…。」
「その…皆が教えてくれてな…今日はこういう日だと。なんと言ったか…『苦莉済ます』?」
おかしなアクセントに吹き出しそうになりながらも、厳かに箱を受け取った。
「わ…ぁ…」
見間違えようの無い、ターコイズブルーの小さな箱。真っ青なブルーのリボンを解いた中にあったのは…
「指輪…だぁ…」
それは銀色の、小さなハートが三つ並んだ指輪で、薬指にすっぽりはまった。