刃に心《第26話・宴の後に》-7
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「も、もう…無理だ…」
「……お………なじく…」
がっくりと項垂れる二人の手からグラスが滑り落ちた。
「うぃなあああああああああ!!」
一人残った勝者───にこにこ顔の希早紀は高らかに声を上げる。
辺りに散らかるのはアルコール類の缶や瓶。結構な量である。しかし、その大半は希早紀が開けたものだった。
「わったしのかちぃ〜♪」
まさかの結末に誰もが言葉を失っている。
その時、静かに扉が開いた。
「あ、チョコ先輩。何処に行ってたんですか?」
「うん…ちょっと七乃丞さんに相談事があって」
千夜子は疾風の隣まで来ると、ストンの力が抜けたように座り込んだ。
そして、疾風の肩に自分の頭を置くようにして、身体を預けた。
「ち、チョコ先輩!?」
「ごめん…飲まされちゃって、少し酔ってて…」
ほんのりと赤らんだ頬に、トロンとした瞳。
明らかに普段の千夜子と違う色っぽさがあった。
「だ、大丈夫ですか?」
思わず声が裏返る。
「うん…でも、もし良かったら」
言葉を一旦切って、千夜子はレンズの奥にある疾風の瞳を覗き込んだ。
「もし良かったら…もう少しこのままでいさせて…」
「えっ?」
「…ダメ?」
不意討ち気味の上目遣いに、ドキリと心臓が跳ねる。
「…お願い」
そう言うと千夜子は眠るように瞳を閉じた。
「え、え〜っと…あの…その…俺は別に構いませんけど…」
「…ありがと」
瞳を閉じたままで言った。
───暖かい。
千夜子は思った。
こうして隣にいるだけで、身体が触れ合っているだけで安らげるのだから不思議だ。
だが、それが恋をしていることなのだと改めて実感させられる。