刃に心《第26話・宴の後に》-5
「な、なななッ!?」
楓と同じくらい疾風の顔も赤く色づく。
「何だ、そういう自分だって顔が赤いではないか。そうか!これが俗に言うお揃いという奴か♪」
「ち、違うからそれ!」
「違わぬ。お揃いだ♪」
楓は尚も「お揃いだ、お揃いだ」と嬉しそうに言いながら疾風に擦り寄る。
───シュッ!!
風を切りながら何かが疾風と楓の間を通り抜けた。
はらりと楓の前髪が数ミリ舞い散る。
二人は驚いて通り抜けた先を見た。畳の上に銀色のスプーンが鈍く光っている。茶碗蒸しの側に置かれていたものだった。
「刃梛枷ッ!」
楓が左斜め前に座った刃梛枷を睨み付ける。
「……手が滑った…」
静かな声。だが、強い怒気が込められている。鈍い疾風でも肌をチクチクと刺すような怒りは感じられた。
と、同時に隣では楓がこめかみをひくつかせている。
「れ、冷静になれって!二人共!こんなところで…」
「ふふ…狼狽えるな疾風。私もこのような席で刀を抜くような無粋な女ではない」
「そ、そうだよ。何が原因かは知らないけど、お互いに落ち着いて…」
「だが、すごすごと引き下がる訳にもいかぬ!
よって、ここはこの場に相応しい決着の付け方を提案する!」
楓はドンッ!、と畳によく冷えたお酒を置いた。
「……飲み比べ…?」
「ああ!」
「……お酒は好きじゃない…」
楓の置いた酒を一瞥して刃梛枷が言った。
両者の衝突は何とか避けられそうだ、と疾風はホッと息を吐く。
しかし、それも一瞬のこと。
刃梛枷は楓の目を真っ向から見据えた。
深淵の如く深い黒瞳。流石の楓も思わず身を固くした。
「……好きじゃないけど………負けるつもりはない…」
そう言って刃梛枷は缶を握った。
「…ふっ、臨むところ!」
互いの視線がぶつかり、火花が散る。
もう間もなく開戦かと思われたその時!
「私もやる!」
何と、全く無関係の希早紀がその手を天高く突き出しているではないか!
「私も飲んでみたい!」
ポカンとした一同を尻目に、希早紀は真剣そのもので言う。