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刃に心
【コメディ 恋愛小説】

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刃に心《第26話・宴の後に》-4

「…疾風は私のことなど興味無いのでしょうか?」

悲しげに、どんよりと溜め息を吐くように楓は言った。

「…やはり時代遅れも甚だしい私などより千夜子殿や朧殿、刃梛枷の方が…」
「そうかなァ?わいは疾風が一番好きなんは自分やと思うで?」
「え…?」

楓は目をパチクリと瞬かせる。
言葉が理解できない。否、理解はできるのだが、それは何処か外国語のように、聞こえる。
しかし、七乃丞はニヤニヤと笑いながら言った。

「思い出してみ?今日、旅館に着いた時、アイツが一番に心配したんは誰やたかなァ?」

そう言われて記憶の糸を手繰り寄せる。
ほとんどの者が車酔いでふらふらとしている時に、一番最初に疾風が声を掛けたのは誰だったか?
間宮兄弟と朧、そして刃梛枷に酔った素振りは無かったが、疾風ならそういった人にも声を掛けるはず。
しかし、あの時は…

「………あ!」
「思い出したやろ?
ええか?人間ちゅう生き物はな、無意識の時に本心や本性を晒け出すもんや」
「…あ、あぁ…」
「そう考えると思い当たる節はいくつもあるとちゃうか?」
「は、はいッ!」
「でも、まだアイツ自身は気付てへんし、これから変わる可能性もあるけどな、今の段階なら自分が一番好きやと思うで。そない心配せんでもええよ」
「はいッ!貴重なご意見ありがとうございましたッ!………………疾風は…私のことが一番好きぃ…♪」

ぽわぽわとした表情で、赤らんだ頬に片手を添える楓。
それを見て七乃丞は口元をさらにいやらしく歪めた。

「と、まあ、自分が一番愛されとるちゅうのが判ったとこで、どうや?」

一度断られたチューハイを再度勧める。
まだそんなに時間は経っていない。グラスの表面には水滴が煌めいていた。
楓はそれを両手で受け取り、数秒間たっぷりと眺めた後、顔を上げると言った。

「いただきます!」

◇◆◇◆◇◆◇

すーっと宴会場の横開きの扉が開いた。

「おかえり。何を取りに行ってたんだ?」

理解力の足らない疾風が問う。しかし、楓はそれを無視して疾風の隣に座った。

「疾風ッ♪」

そして間髪入れずに疾風に飛び付いた。
ぽかん、と疾風のみならず千夜子や刃梛枷さえも唖然としているが、楓は構わず身体を密着させる。

「ふふふ…。疾風も私と同じ気持ちだったのだな♪その素っ気ない態度は照れ隠しだったのだな♪
今まで察することが出来なかった。すまぬ♪」
「あ、あの〜…一体どういう…」
「言わずとも良い!私はしっかりと理解した!」
「ちょっ…何を…て言うか、顔赤くないか!?」
「ん?ああ、少し七乃丞殿と飲んでな。いや、そんなには飲んでおらぬぞ?たしなむ程度というか、酒は飲んでも呑まれてはおらぬ♪」
「いやいや、十分に呑まれてますって!」

そこまで言って疾風は気付いた。
今の楓の格好は浴衣。当然、薄い布地である。
その格好で身体をぐいぐいと押し付けられれば、説明するまでもなく柔らかな…


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