刃に心《第26話・宴の後に》-3
「し、師匠…」
その姿を彼方は感動したように見つめる。
「つまり、僕はまだ出会ってないんですね!」
「そや!」
「まだまだチャンスはこれからなんですね!」
「そや!」
「もしかしたら、ブロンド美人に迫られるかもしれないんですね!」
「そや!金髪ねーちゃんがアイラブユーや!」
「師匠ーッ!」
感動のあまり彼方の瞳には涙が。
何と言うか…もうアホの極みである。
「そや。自分らもこの恋愛マスター七乃丞様に相談するか?」
七乃丞はニヤリといやらしい笑みを浮かべると皆を見回した。
「参考になると思うんやけどなァ〜。恋愛経験は豊富やし、自分らの気になるアイツのこともかなり熟知しとるからなァ〜」
その言葉に数名がぴくりと反応する。
疾風は怪訝そうに首を傾げた。
「まあ、ええ。此処や言いにくいやろ。隣の部屋で待とるからいつでも来いや♪」
そう言うと七乃丞は宴会場を出ていった。
襖で仕切られている訳では無いので、隣部屋に行くには一度宴会場を出る必要がある。
「ったく…」
はちゃめちゃという言葉が似合う従兄に思わず溜め息が零れる。
「ん?楓、どうしたんだ?」
そろりそろりと部屋を出ていこうとする楓を見つけて、疾風が言った。
「あ…いや…その…部屋に忘れ物をしたのを思い出してな!ちょっと取って来ようとしたところだ。べ、別に相談しに行くわけではないぞ!」
楓は顔を赤くすると慌てて宴会場を出ていく。
疾風はまたも怪訝そうに首を傾げるだけだった。
◇◆◇◆◇◆◇
「おっ、来たな」
誰かが部屋の前に来た気配を察知して、七乃丞は煙草の先端を灰皿に押し付けた。
「し、失礼します…」
「最初は許嫁ちゃんかァ♪まあ、そこに座りィ」
唇をニヤニヤと歪めながら、目の前の座布団を進める。
楓は躊躇うものの、黙ってその上に正座した。
「そない緊張することないで。どうや一杯?」
「い、いえ…結構です」
差し出されたチューハイをやんわりと遠慮する。
「自分も真面目やなァ。
さて、本題に入ろか。自分の悩みは一緒に暮らしとるのに疾風との関係が一向に発展せんことやろ?」
内心をズバリ言い当てられて、楓は目を丸くした。
そして、すぐに小さく首肯する。