刃に心《第26話・宴の後に》-2
「何するんだよ」
彼方の伸ばした箸を、疾風は自分の箸でガードした。
「…ふっ、流石だな。
だが、俺は負けん!俺は必ず、朧先輩を貴様の魔の手から守ってみせる!
そして、朧先輩はきっとこの俺と…♪
ああもう!朧先輩大好きです!」
どさくさに紛れて告白。
すると朧はふわりと笑って、
「ごめんなさい♪私、疾風さんに夢中ですから♪」
ズガーンッ!
彼方のバックで雷が落ちた。
「ふ…フラれたぁああああ…」
雷に撃たれ、崩れ落ちる彼方。
「ハハッ!おもろいなァ!自分ら!
一杯、どうや?」
上座に陣取った七乃丞が笑いながら、コップを差し出してくる。
中身は橙色でオレンジジュースにも見えなくはないが、七乃丞の傍らに置かれた缶には20歳未満お断りと明記してある。
「七兄。それはジュースじゃないよね?」
いつになく優しげな口調で諭すように疾風が言う。
「はぁ?何、ゆーとんねん。チューハイとカクテルはジュースやろ?そんで、酒と煙草はおおよそ二十歳からやろ?」
「チューハイもカクテルもお酒ですッ!そして、酒と煙草はおおよそではなく、きっちり二十歳からッ!」
思わず、声を荒くして、間違った倫理観を持った従兄にキレる疾風。しかし、当の本人は飄々と笑うだけで、全く意に介していない。
「ええやん。そないにぎゃーぎゃー言わんでも。学校やあらへんし」
「…師匠、いただきます」
いつの間にか七乃丞の側にいた彼方はコップを受け取り、グイッ、と一気に飲み干す。
未成年の良い子は絶対に真似しないようにッ!
「おっ、自分はいける口やなァ」
「…師匠、どうして僕はモテないでしょうか?」
深刻な顔でコップを置く彼方。
「疾風なんか勉強も普通で、運動も普通で、眼鏡も普通なくせに、周りには女の子ばっかりで…」
一瞬、疾風の方を向いてキッ、と一睨み。
七乃丞はその肩をぽんぽんと叩いた。
「そない悲観することはない。
ええか?この世にはある真理が存在する。何やと思う?」
「…等価交換ですか?」
「う〜ん…どっかの錬金世界ならそれで花丸やけど、惜しい。
正解はな、需要と供給や」
ぽかんとした顔をする彼方に七乃丞は尚も静かに語りかける。
「ええか?今まで売上がゼロちゅう商品を見たことがあるか?無いやろ?あったとしても、知らんやろ?
それはな、どんな物でも興味を持つ奴がおるちゅうことや。
次によー考えてみ?この世は何十億て人間でごった返してんで。
その全員に好かれるちゅうのは絶対に無理やけど、反対にその全員に嫌われるちゅうのもまた無理な話や。ヒトの好みなんて十人十色どころか億人億色やからなァ。
つまりや、このだだっ広い地球には必ずや自分が好きや、ゆーてくる人間がいるはず、てことやァ!」
何処かの新興宗教の教祖よろしく、七乃丞は大きくその両手を広げた。