刃に心《第26話・宴の後に》-11
「よっ…と」
右腕を自分の肩に背負うように支え上げる。
そうして、また板張りの廊下を進んでゆく。
「ん…んん…」
宴会場を出て、少しした所で、楓が目を覚ました。
とは言っても、未だアルコールが抜けきっておらず、ぼんやりと眠そうな瞳を瞬かせている。
「大丈夫?」
疾風の問いかけに、楓はこくりと力なく頷いた。
「気分はどう?気持ち悪い?」
今度は首を横に振った。
「じゃあ、部屋まで送るから。もし気分が悪くなったら言うんだよ?」
「ん…」
小さく首肯する。
それを見て、疾風は肩を貸しつつ歩き出そうとした。
が…
「おわっ!?」
一、二歩歩いたところで、いきなり楓が枝垂れかかってきた。
「だ、大丈夫?やっぱり気分悪い?」
ちょっとびっくりして問いかけると、楓はこう答えた。
「…抱っこ」
「………………………………………………………………………………は?」
三点リーダーを贅沢に30個も使っても、疾風は状況が読み込めなかった。
「…床がぐにゃぐにゃして歩けぬ…だから抱っこしてくれ…」
だが、楓はそんなことなど気にすることもなく、眠たそうに疾風を見つめる。
「疾風ぇ…抱っこぉ…」
「あの〜楓さん…何か幼児化してますけど?」
「幼児でもつまようじでも構わぬぅ…頼むから抱っこぉ……」
「そ、そんなこと頼まれても…」
「うぅ〜、疾風ぇ〜」
こうなってしまっては楓は絶対に動かないだろう。
普段の頑固な性格が酒によって増長されているようだ。
「え、えっと…」
相変わらず、楓は子供のように疾風にしがみついたまま動こうとしない。
「疾風…私のこと嫌いなのか…?」
困惑しているところに更に追い討ちをかけるように楓が言う。
しかも、本当に悲しげな顔と涙目で。
「ああもう!判ったよ…」
(この顔は反則だろ…)
疾風はキョロキョロを辺りを見回した。
右を見て、左を見て、上を見て、床下の気配を探り、背後に注意を払い、もう一回天井に誰もいないことを確認すると、片手で楓の肩を支えたまま、膝の裏をもう片方の腕で抱え上げた。俗に言う“お姫様抱っこ”というやつである。
「ん〜♪」
やっと望みが叶った楓は嬉しそうに疾風に摺り寄る。
「まったくもう…」
恥ずかしさを隠すように呟くと、疾風は真っ赤な顔のまま楓の泊まる部屋である棕櫚の間に向けて歩き出した。
その姿はさながら、ヴァージンロードを歩く花婿と花嫁のよう♪
「うるさい!」