刃に心《第25話・愚者が夢見る桃源郷》-2
「さてと、部屋割りはどうしようか?」
「わいと同じ部屋の娘にはめくるめく甘美な大人の世界を手取り足取り…ほぐッ!!」
七之丞の脇腹に疾風の残像すら残さない拳が決まる。
「普通に男女別々でいいだろ?」
「え〜」
「え〜、じゃないです!月路先輩!」
「でも、男女一緒の方がいい人も何人かいるみたいですけど♪」
朧はそう言うと、振り返って楓、千夜子、刃梛枷に向かって順番に微笑みかけた。
刃梛枷以外の二人は思わず身体を強ばらせる。
「まあ、疾風さんがそう言うのならば、今回は健全に男女別々にしましょうか♪」
◇◆◇◆◇◆◇
数分後…。
杜若の間―疾風と七之丞。
百日紅の間―彼方と武義。
柘植の間―間宮兄弟。
棕櫚の間―楓と希早紀。
雛罌粟の間―千夜子と眞燈瑠。
馬酔木の間―刃梛枷と朧。
以上の組み合わせが、公平且つ互いに牽制し合った結果、決まることとなった。
「ふぅ…」
杜若の間にて、疾風が自分の荷物を置いた。
思わず口から息が零れる。
「…ったく、七兄はいつも、無茶苦茶なんだから」
「あないなもん無茶にも苦茶のうちに入るかいな。わいは他人のことを考える慎重な人間やで」
「何が他人のことを考える慎重な人間だよ。
中学生くらいの俺にいきなり電話掛けて、酒三本と丈夫なロープを数本。しかも酒に至ってはできるだけ度数が高いのを。さらに三本のうち、一本は中身を水に替えて、高校まで持ってこい、なんて訳の判らないこと言って一方的に電話切ったくせに」
「よくそない大昔の事覚えとたな。
あの時はいろいろあって、しゃーなかたんや」
そう言って軽く笑うとポケットから煙草を取り出した。
淀みのない手付きで箱から一本抜いて、口にくわえた。
続けてマッチも取りだし、素早く擦ってその火を煙草へと移す。
大きく紫煙を吸い込む。
「自分も一本どや?」
口から煙草を外し、煙を吹き出すと、七之丞はLARKの箱を差し出した。
「いらないよ」
疾風はそれを押し返す。
「真面目やなァ。そない真面目やとストレス溜まって身体壊すで」
「煙草の方が先に身体を壊すと思うんだけど」
七之丞は相変わらずのニタニタ笑いを口許に浮かべたまま、もう一口、煙を吸った。
「美味いのになァ」
疾風は呆れたようにゆらゆら揺れる紫煙を眺めた。
それは捉え処のない七之丞によく似ていた。