Strange days-1
ー深夜ー
沙那の携帯が鳴り響く。
「う…ん…」
沙那はベッド・サイドのナイト・ランプをつけて時計を見た。針は午前2時過ぎをさしていた。
(いったい誰よ…こんな夜中…)
沙那は携帯を取るとディスプレイを見た。友達の知佳子からのメールだった。
眠った思考のままメールを開く沙那。ディスプレイには〈今までありがとう〉とだけ書かれていた。
それを見た瞬間、背中に冷たい感触が走り、不安が頭をよぎる。眠気は何処にすっ飛んでいた。
彼女は大慌てで知佳子を呼びだす。
繰り返されるコールがもどかしい。だが、コールは続くだけで知佳子は電話には出なかった。
何回ものコールの後、沙那があきらめかけた時、外から小さな音だがハッキリと聴こえた。救急車のサイレンが……
ー朝ー
「起きろーっ!」
上条敦は耳元で響いたかん高い怒号で、ソファから飛び起き周囲を見渡す。目の前には彼の部署の総務、林田めぐみが立っていた。
「……今、何時?」
めぐみは〈あきれた!〉とでも言いたげな表情を浮かべて、
「8時半です!早く準備しないと皆んな来ちゃいますよ」
「分かったよ…」
敦はソファから立ち上がると、フラフラとした足取りで更衣室や洗面所のある奥に消えた。
(8時半という事は3時間は寝れたのか…)
敦はノロノロと洗面を済ますと、シャツにネクタイ、スーツを着替えて事務所に戻って来た。そして、自分のデスクに座ると倒れるようにつっ伏した。
情報システム部システム管理課。
それが彼の業務だった。システム管理と言えば聞えは良いが、要は〈コンピューターのよろず屋〉だ。ホスト・コンピューターのプログラム修正からパソコンの修理まで、コンピューターに関連する事はすべてこなす。
今現在も、社内ネットワーク・システムのパスワード変更の最中なのだが、一緒に働いていた同僚が異動になってしまったため、敦への負担が増えていたのだ。彼はここ半月、満足に眠れない日々を送っていた。
(せめてあと1時間眠れれば…)
「ホラッ、これ…」
目の前でビニールの音がした。つっ伏したままの姿勢で目だけを開らくと、コンビニの袋が置かれている。
「朝、抜くのは身体に悪いですから…チャッチャと摂っちゃって下さい」
照れたようにめぐみが言った。袋を開けると、サンドイッチとコーヒーが入っているではないか。
敦はめぐみに対してニッコリ微笑んだ。