Strange days-9
「オマエが死にたきゃ死ねばいい……オマエのお袋さんは悲しむだろうが世の中からすりゃあ何の関係も無いしな」
そこまで言うと、敦はキャメルを取り出し火を着けた。ゆっくりと深呼吸をする。
彼は〈だがな〉と言ってから言葉を続けた。
「オマエが死ねば必ず誰かしらに迷惑が掛かるんだよ。どんな死に方でも警察がまず動く。まして遺書を残して苛められた事を克明に綴ってたら、そこに書かれたヤツは一生その事から逃れられないだろうな。死をもって訴えかけるなんざオレに言わせりゃ卑怯者のやる事だ」
敦は一気にまくしたてると、再びキャメルをひと口吸った。
そして、ゆっくりと煙を吐くと再び語りだした。
「で、こっからはオレの提案だ。おまえさんにとっても良い話だと思う」
敦は深く息をすると続けた。
「もし、どうしても死にたいなら、なるべく人に迷惑をかけない方法を教えてやる」
「上条さん!いい加減にしなさいよ」
黙って聞いていためぐみが敦を怒鳴る。
しかし、敦はそれを無視して、
「もうひとつは立ち直るきっかけが欲しいならオレが与えてやる」
その時、寡黙でうつ向いていた知佳子が初めて顔を上げて敦を見た。
「3つ目は何もしない。オレは何も関わらない」
それだけ言うと敦は席を立ち上がり、
「決めるのは自由だ。決まったら連絡をくれ。オレの話は以上だ」
「ちょっと!話が違うじゃないの」
沙那が大声で投げかける。敦は振り向こうともせずに彼女に答えた。
「まだ仕事中だ。それに、それ以上喰われちゃオレの懐が干上がっちまう」
そう言った敦の手には伝票が握られていた。
ーある日の土曜日ー
敦は自宅のリビングでくつろいでいた。ここ何週間、自宅へは服や下着を取りに帰るだけで仕事にかかりっきりだったので、こんなにのんびり出来るのは本当に久しぶりだった。
午前中はたまった洗濯物を洗ったり昼食を作ったり多少忙しかったが、午後からはリビングの床に寝ころがるとジャックダニエルをグラスに注ぎ、ペーパー・バックに目を通す。
部屋にテナー・サックスの音が響き渡っている。
敦にとってはまさに至福の時間だった。
その時だ。床に転がしていた携帯が震えて自己主張する。
(なんて無粋なヤツだ)
敦はおっくうな気持ちで携帯を取ると、通話ボタンを押した。