Strange days-8
「まったく!いつでも仕事、仕事なんだから」
「でも、約束は必ず守る人だから…」
「しゃーないな!敦のオゴリで何か食べよっと」
沙那はそう言うと、テーブル脇にあるメニューを取って拡げた。
そして、じっくりと思案した後に、メニューを指差した。
「このラズベリー・パフェにする!チカちゃんはどれにする?」
沙那はとなりに座る知佳子にメニューを見せる。知佳子はあまり迷う事無くメニューを指差した。それは、沙那と同じラズベリー・パフェだった。
「同じモノで良いの?」
「…うん…」
か細い声で彼女は答えた。知佳子と会って20分。めぐみが初めて聴いた彼女の声だった。
三人の前に注文したモノが運ばれて来た。沙那と知佳子にはラズベリー・パフェ。めぐみにはミルク・ティーが。
三人がそれぞれ口に運ぶ。沙那は〈美味しい、美味しい〉を連叫しながら頬は緩みっぱなしなのに対して知佳子は黙々とパフェを口に運ぶ。実に対象的なイメージ。
と、その時、窓ガラスをとおしてバラバラという騒がしいエンジン音が聴こえて来た。
窓際からめぐみが外を眺めた。まだ薄暮のだったので外の様子がうかがえる。
軽自動車よりふた廻りほど小さいだろうか。オレンジ色の車体は駐車場のロータリーを勢い良く走ると、素早い動きで空いた駐車スペースに停まった。
「あっ、きたきた!」
沙那が言った。その言葉にめぐみは驚いた。
「何で知ってるの?」
「だって乗った事あるもの!」
沙那の言葉にくやしさがこみあげるめぐみ。
敦はファミレスの入口に姿を表す。めぐみと沙那は大袈裟に手を振って見せる。が、敦はまったく反応をせずにテーブルに近づいた。
「遅くなっちまったな」
そう言うと、通路側にいた知佳子の方に視線を落とした。そして、彼女の服、長袖のシャツの袖をおもむろに捲った。
捲った手首にはミミズ腫れのように浮き出た無数の傷が見えた。思わず手首を引っ込める知佳子。敦は〈フンッ〉と鼻を鳴らした。
「リスト・カッターか…」
嘲るような笑い。
「知佳子とか言ったな…残念ながらそこを切っても死なんよ。もっとこっち側をザックリ切らなけりゃ…」
敦は知佳子の手を取り、指で示す。そしてドッカリとめぐみのとなりに座った。ちょうど知佳子と正対するように。
そして沙那を親指で示しながら、
「こいつに何を聞いたか知らんが、オレはオマエを説得しようなんざ思ってねえんだ」
「ちょっと!上条さん…」
「あんた!私の友達に…」
めぐみと沙那が同時に言おうとするのを敦は遮る。