Strange days-19
「敦さん、本当にありがとうございました!」
「良い眼になったな……」
敦は目を細めて知佳子を見る。
「アナタのおかげです!」
「礼なら沢崎さんと夕子さんに言え。それより、荷物はそれだけか?」
「ハイッ!ひとつにまとめましたから」
そう言うと、知佳子はスタスタと自分で荷物を運んだ。
ひと月前は敦が運んだ荷物をだ。
別れ際、敦が沢崎に礼を言っていると、一人の女性が近寄ってきた。彼女を見た知佳子は、駆け寄ると抱きついた。
「帰っちゃうのね。チカちゃん」
知佳子は目を潤ませて彼女に言った。
「夕子さん!私、また戻って来ますから」
〈夕子〉と聞いて、敦は歩み寄った。
「夕子さん。アナタのおかげです」
敦は深々と頭を下げる。すると、夕子は、
「彼女の自分の力です。変な障害を作らず、自分から溶け込んでいったんですから」
そう語る夕子の目も涙で潤んでいた。
夕暮れ。知佳子と沙那を例のファミレスで敦は降ろした。
「上条さん。私、学校に行きます!」
知佳子は敦にそう言った。
「私、高校出て、あの農場に就職します!そして、夕子さんのようになります」
敦は白い歯を見せながら、
「良かったな、目標が出来て。その気持ちを大切にな」
そう言って沙那の方を見ると、
「オマエも頑張れよ!ぼーっとしてると知佳子に嫌われんぞ」
「わ、分かってるよぉ…」
沙那の言葉に、皆が声を挙げて笑った。
その後、知佳子が、
「敦さん。沙那ちゃんに聞いたんですけど、10年後のデートを約束してるそうですね」
敦は笑いながら、
「ああ…10年経って、アイツが素敵な女になってたらな…それが?」
「私も良いですか?そのデート」
知佳子はいたずらっぽく笑っている。敦は一瞬、戸惑いを見せるが、すぐに笑顔になると、
「ああ、オマエが素敵な女になってたら、オレの方から申し込むよ」
「約束ですよ!」
知佳子は右手を出した。敦はそれをしっかりと握った。
メルセデスはゆっくりと2人から遠ざかって夕暮れの闇にまぎれて行く。
その姿を沙那と知佳子はずっと眺めていた。