Strange days-17
「ここは温度管理もやっていてね。暑い昼間は換気ファンとかで熱気を外に逃がすの」
夕子はカゴを乗せた台車を知佳子に任せると、自らはハサミを握り、
「知佳子ちゃんは、ナスの手入れと夕食の材料穫りを手伝ってね!」
夕子はそう言って、ナス畑の畦道をズンズン奥へと進んで行く。
知佳子も台車を押してついて行く。
紫色で大きく広いナスの葉が幾重にも広がっている。
大小様々なナスの実の周りには、うす紫色したナスの花が沢山咲いていた。
「ホラッ、こんな風に葉が重なると日が当たらなくて、ナスの実が小さくなるの。だから、ほどほどに葉を取っちゃうの」
そう言って夕子は間隔を開けて葉を取り除く。
そして、今度はしゃがみ込むと実の出来具合を見ながら、
「この実も同じ枝から生えてるでしょう。これも放っておくと、大きくなりきれないの。だから片方を取っちゃうの」
そう言って、まだ小さな実を切ってしまった。
「これ…どうなっちゃうんですか?」
「エッ?」
「この…葉っぱや実…どうなっちゃうんですか?」
知佳子は切り取られたナスの葉や実を指差していた。
夕子は意外な質問に驚いた様子を見せるが、すぐに笑顔になると、
「葉や小さな実は細かく砕いて、近くの酪農家からいただく家畜のフンやオガクスに混ぜて堆肥を作るわ。それから食べられる位の大きさの実は、私達の食事に使うの」
「そう…」
夕子の答えに、知佳子は安堵したような顔をする。
「作物にはね。何ひとつムダな物は無いの」
夕子は語り掛けるように知佳子に言った。
ー夜ー
夕食後、知佳子は夕子に連れられて、集会所に行った。20畳位の広さは有るだろうか。
そこには、知佳子と同じ位の年齢の子達がいくつかのグループになって、大人から勉強を教えられていた。
「彼らは先生の資格を持った人達なの。ここにはアナタも含めて13歳から17歳の子が12人いるわ。
だから、昼間は一緒に農作業に従事して、夜は勉強や社会的道徳などを教えているの」
そう言って夕子はニッと笑うと、
「一応、私も教員免許持ってんだけどね!」
夕子は知佳子の手を引いて、部屋の真ん中に行くと、手を叩いて皆の注目を集める。
「皆さん!新しい仲間を紹介します。知佳子ちゃん、中学3年生です!宜しくね」
夕子は知佳子を紹介すると、彼女に〈頭だけ下げれば良いわよ〉と、耳元で囁き挨拶を促した。
全員の眼が知佳子に集中する。
学校での恐怖が、彼女の脳裏をよぎり、吐き気が襲ってくる。
だが、知佳子は必死にそれに耐えながら、小さな声で語り出した。