Strange days-14
「チカちゃん!止めときな。こんな僻地、退屈で3日と持たないよ」
「……」
沙那は知佳子にアドバイスする。が、彼女は無言で力無い笑顔を沙那に向けるだけだった。
「またせたな」
敦が戻って来た。となりに一人の男を携えて。
ベースボール・キャップを被り、くたびれたジーンズにチェックのボタンダウン。アメリカ南部あたりに居そうなファーマーを連想させる。
何より、人懐っこい眼と笑っているような顔が、独特の雰囲気を醸し出していた。
「彼は沢崎さんと言って、この施設の経営者なんだ。昔、オレも世話になった恩人だ」
「沢崎・イサク・圭一郎です」
沢崎はそう言うと頭を下げた。フォローするように敦が続けた。
「彼はユダヤ人と日本人のクォーターなんだ」
そして、ひとつ咳払いをすると、
「ところで、〈キブッツ〉って聞いた事は?」
「集団農場…ってのは知ってますけど…」
敦はめぐみの言葉に頷きながら、
「半分当たりだな。同じ宿舎で寝起きを共にしながら、支え合い、自立して生活する場所だ」
敦の言葉に今度は沢崎が割って入る。
「昼間は皆で農作業に従事します。夜になると、大人達は子供に勉強や社会的道徳を教え、子供達はより小さな子供に物事を教えます」
「で、こっからは自由意志だ」
敦はそう前置きして言葉を続けた。
「知佳子。オマエが自分自身を変えたいと思うなら、ここで生活してみないか?」
「そんなの無理に決まってんだろ!学校がイヤで籠ってんのに!」
「ちょっと!上条さん…」
敦は沙那とめぐみの言葉を右手で制すると、
「決めるのは知佳子だ。オマエらじゃない」
そして、知佳子の方を見た。彼女は相変わらず、うつむいたままだ。
めぐみも沙那も知佳子を見た。
「チカちゃん。イヤならイヤって言って良いんだよ」
同情の眼で沙那が言った。
長い沈黙。
「…あの……」
どのくらい経っただろうか。知佳子が消え入りそうな声で言った。
「ここで……頑張ってみます…」
敦は小さく頷くと、口元に笑みを浮かべた。嬉しさと安堵が入り混じったような。
めぐみは、それを見逃さなかった。
敦は沢崎に何度も頭を下げた。そして、知佳子の荷物を運び込む。
別れ際、敦は知佳子に自分の名刺を渡した。裏には彼の携帯アドレスが書いてあった。
「どうしても帰りたくなったらココに電話しろ。いつでも迎えに来てやる」
メルセデスは来た路をゆっくりと帰っていった。