Strange days-12
「着いたぜ」
「ありがとう」
敦の言葉に由貴が答え、頷く。
小高い山の中腹にある駐車場。そこはお寺だった。
助手席にはどこで手に入れたのか、季節外れのコスモスが束で置かれ、めぐみと由貴は狭い後部座席で終始お喋りしていた。
と、言っても由貴が一方的にめぐみに語りかけ、めぐみが答えると言った具合だが。
話題はもっぱら敦の事だった。彼の仕事場でのエピソードから、めぐみの結婚に対する考え。しまいには〈敦の事をどう思うか?〉だとか、〈もし彼と結婚したら、どんな家庭を築いて子供は何人欲しい?〉など、まるで敦の親のような質問をめぐみに浴びせた。
最初は黙って聞いていた敦も、〈何を勘違いしてるんだ!〉と、顔を赤らめ語気を荒げる始末だ。
だが、クルマが停まった途端、そのような会話は途絶え、由貴は悲し気な表情を見せる。
敦が花束を持ってクルマを降りる。由貴とめぐみも続いて降りた。
3人は寺の境内を横切ると、その奥にある霊園に向かった。
数々の墓碑が立ち並ぶ中、敦はある墓碑の前で歩を止めた。
「これって…?」
「ああ…ウチの墓だ…」
めぐみの問いに敦は答える。
敦は持って来たコスモスの束を墓碑に供えると、ゆっくりとしゃがみ込み、悲しげな眼で語り出した。
「ここには…オレの両親と、兄貴が眠ってるんだ…」
「お兄さん…?」
「一番上の兄なの…」
由貴はそう言うと、敦のとなりにしゃがみ込んだ。
めぐみはそれを聞いていたたまれなくなり、ただ黙って2人の後に佇んでいた。
「オレが高校の頃だった…」
敦が沈黙を破り、語り出す。
「オレは部活の合宿の最中だった…」
ー7年前ー
夜明け前、けたたましい声で敦は起こされた。
「上条!上条はいるか」
「ふぁい…何すか?先生…」
「家から電話だ!職員室に来い」
「はい…」
起床時刻よりだいぶ早いためか、敦は寝ぼけたまま職員室にある電話をとった。
だが、受話器から聞こえる嗚咽で、敦の眠気はふっ飛んだ。