Strange days-11
(でも…キレイな人…)
めぐみの視線は女性に釘付けだった。整った鼻梁に憂いを持った瞳、厚い唇は大人の色気に溢れていた。
(…上条さんの恋人……これじゃ私なんて子供に見られても、仕方がないなぁ…)
めぐみは横目で女性を見ながら、妄想の中でひとり納得していた。
「あの…敦、となりの方は？」
「ああ、こいつは…」
敦がそこまで言った時、めぐみは焦って両手をワイパーのように振りながら裏返った声で、
「あ、わ、私、か、か、上条さんとは…会社仲間でして…い、今もたまたま会って…けけ、決してお2人の邪魔をしようとは思ってませんから！」
「あらそう！」
女性はパァッと明るい顔をめぐみに向けると、嬉しそうに言った。
「いつも弟がお世話になってます。敦の姉の由貴です！」
そう言って、彼女はめぐみに対して深々とお辞儀した。
「エッ？」
めぐみは敦の顔を見た。〈しまった〉とでも言いたげな苦い顔をして、横を向いていた。
めぐみは慌てて頭を下げた。
「こ、こちらこそ、初めまして。林田めぐみと申します。上条さんは、私にとって、素晴らしい先輩です」
「そう！」
由貴はめぐみに会釈しながらチラッと敦を見た。
敦はいたずらが見つかった子供のように横を向いている。それを見て、由貴はかすかに微笑むと、めぐみに向かって奇妙な事を言い出した。
「めぐみさんは、今日ヒマ？」
「ハイ？」
頭を上げながら、由貴の言った事が理解出来ないめぐみ。
「よろしかったら一緒にいらっしゃらない？」
「何をバカな事を言ってんだよ、由貴さん！コイツとは偶然会っただけなんだよ」
由貴の誘いにめぐみよりも、敦の方が素早く反応を見せた。
「あらっ！良いじゃない。2人で行ってもつまらないし、あなたの事を彼女に訊いてみたいわ」
由貴は敦をからかうように、めぐみを連れて行こうとする。
その敦は由貴に背を向けると、〈勝手にしろ！〉と言ってその場から歩いて行ってしまった。
「じゃあ決まりね！さっ、行きましょう」
由貴はめぐみに微笑みかけると、彼女の手をとって敦の後を追う。
(上条さん、姉さんには弱いみたい…)
普段はクール・ガイに見せる上条が由貴には振り回されている。意外な一面を目のあたりにしためぐみ。
3人を乗せたフィアット・チンクエストは駅を離れ、郊外へと向かった。