飃の啼く…第11章-13
「ここで…母さんは…。」
―!?
「めずらしいなぁあ…お客とはよ・・・」
「お前…!!」
氷雨は地面を蹴って、宙に舞った。上空から見下ろすと、底には身切れも無い澱みの姿…
「まあ、降りて来いや…お前を食ったりはせん…」
その姿は、3年前と変わらずおぞましく、吐き気を催すほどの臭気を纏いながら、黒い身体をくゆらせていた。
「誰が…!今すぐ凍て付かせて殺してやる!!」
身構えて、雪雲を呼び寄せる氷雨。その威勢を削いだのは、
「あの人間が鬱陶しいんだろう?」
「何?」
引力を失った雲が、散り散りになる。
「図星のようだなあ…。」
口と思しき部分が歪んで、笑顔のような表情を形作る。
「3年前に命を捨てて村を守ったあんたの母親を助けもせず、哀れなガラクタどもを置き去りにして非常にも村を去った人間たち…悲しいねえ…そんな人間の仲間に、村を救ってもらおうだなんて…なんともプライドが傷つく話じゃないか? 」
「…だまれ!元はといえばお前が…!」
勢いを失った雪は、一陣の風で簡単に消え去ろうとしていた。
「交換条件だ。今後一切手出しはしない…あの娘を殺させてくれたら…さ。」
「……どうすればいい?」
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予想外の事態に、私はあわてて九重を握り直す。後から出てきた飃が、村の者を避難させようと走っていった。こんなに大きな澱み相手では、彼らは勝てない。
そいつは、完全なる液体型の澱みだった。うっすらと見える核の部分ですら、液体の状態で中心部分をゆらゆらと漂っている。真っ黒な水溜りから突き出した一本の腕が、氷雨をしっかり握っていた。
澱みの身体をなす液体が、雪の上で奇妙な玉虫色の水溜りを作る。
嗅ぎ覚えのある匂い…でも、なんだろう。鼻につんと来る。この匂いは…この匂いはなんだ?