『ねぇ』-1
誰だって忘れられない恋の1つや2つくらい、ある。
ねぇ、あなたと離れてもう3年経つね。
ねぇ、今何してる?
今でもまだあの場所にいるのかな。
『おはよございま-す』
少し重いドアを押すと部屋から独特の匂いがする。
『おはよ』
ワイシャツを着たあなたが目に写る。
でも、いつも挨拶はしてくれない。
そんな事ももう慣れた。
『ねぇ、今日忙しいかな』
あたしはあなたを横に準備を始める。
『どやろな-。俺的に暇がええよ』
『そやね』
だって、あなたとずっと話してられるから。
『昨日な、彼女と喧嘩してん』
また彼女。
あたしは苦笑いが苦手。
でも、あなたはいつも横にいるから。
あたしがどんな顔してるかはわからないよね。
『なんで?』
『俺が連絡あんませぇへんからな。怒られた』
顔は、見れない。
けど声が弾んでる。
また、嫉妬?
『連絡しない男はヤやわ』
『でも、7年毎日メールはしてんねんで。決まりやねん』
『それならええわ。許したる』
『許したるて』
あなたは笑ってあたしを見下ろす。
その顔、ずるい。
ねぇ、2年間ここでずっと頑張れたのはあなたがいてくれたから。
ねぇ、いなかったらとっくにあたし辞めてたよ。
『ねぇ、タオル取って』
あたしは黙ってあなたにタオルを渡す。
『ありがとう』
『…うん』
あなたはあたしの事名前で呼ぶ事なかったよね。
あたしもあなたの事名前で呼ばなかった。