ICHIZU…⑧-14
だが、続く3番への3球目。
打った瞬間、センターに抜けるような当たりをセカンド田村が横っ飛びで止めたが、どこにも投げられない。
ワン・アウト3塁、1塁で4番を迎えた。
山下は立ち上がり、外に構えている。敬遠だ。塁を埋めて守り易くしようという作戦だ。
バッターは5番。内野の守備位置はダブル・プレイを狙うため、定位置より少し深く守る。
山下は外角低めのスライダーのサインを出す。
直也は頷いて、速いモーションから投げた。
バッターは思い切り振った。が、直也のボールは外に逃げる。
(随分力が入ってるな。自分が決めてやろうと思ってるのか)
こういう場合、得てして遅い球に弱い。山下はカーブを要求した。
直也はサインに頷いて投げた。
ボールはフワッと浮き上がると向きを替えて低めに落ちてきた。
バッターはタイミングを外されながらも、バットを振った。
ボールは高く舞い上がった。
ショート大野が手を挙げた。バッターはバットを叩きつけてから1塁へ走る。
大野が大事そうにボールを捕った。これでツー・アウト満塁だ。
バッターは6番。
山下は外の低めに構える。
直也は頷いて投げた。バッターは強く叩いた。
打球が低い弾道でライトに飛んだ。が、ライト佳代の真正面だった。
誰もが勝利を確信した。佳代もだ。
打球が落ちてくる。
(これで試合終了だ)
佳代がそう思った時、ボールが見えなくなった。照明が目に入ったのだ。
身構えて顔をそむける佳代。ボールはその横をすり抜けた。
「カヨーッ！何してるの、ボール追っかけて！」
必死の形相で叫ぶ尚美や有理の声も、今は届かない。
「え？あっ！」
ボールは佳代の後を転々としている。頭の中はパニックに陥り、自分が何をするのかスッポリ抜けていた。センター橋本がボールに走り寄る。
それを見た3塁ランナーはホームに還り、2塁ランナーも3塁を廻った。
ようやくボールを掴んだ橋本は、セカンド田村に返球する。田村は素早い動きで山下に投げた。
だが、遅かった。山下がボールを捕った時には、1塁ランナーがホームに滑り込んでいた。
瀬高中学のベンチから選手が飛び出し、抱き合って喜んでいる。
優勝候補の筆頭、青葉中学は順々決勝で破れ去った。