ICHIZU…⑧-10
「すまん…頼んだぞ」
信也は力無く笑うと、ボールを青木に託す。
青木はボールを受け取りながら、ニヤリと笑うと、
「心配すんな！たまにはオレ達に活躍させろ」
信也はにっこり笑うと、ベンチへと下がって行った。
投球練習の後、ツー・アウト、ランナー2塁でプレイ再開となった。
バッターは3番だ。
山崎はサインを出す。内角低めのストレート。
青木はセット・ポジションから早い動きで投げた。
が、力みからか、シュート回転して真ん中に入って来た。
バッターはコンパクトなスイングでボールを打ち返した。
打球はセカンド田村の横を抜けてライトに転がった。
2塁ランナーが、3塁ベースを踏んだ。コーチャーは腕をぐるぐると廻す。本塁突入のサインだ。
(行かせるか！)
佳代はダッシュで転がって来るボールをグローブですくうように捕ると、反動をつけてホームの山崎に投げた。
ランナーが走り込んで来る。山崎はホーム・ベース手前に座り込むようにカバーする。
佳代の返球が滑るようにバウンドする。
ランナーが滑り込んで来た。
山崎はミットにボールが入った瞬間、身体ごとランナーにぶつけた。
山崎はランナーの勢いに、ふっ飛ばされながら、ミットを挙げてアピールする。
主審の右手が挙がった。
「アウトッ！」
山崎のファイン・プレイのおかげで青葉中学は同点を免れた。
皆がハイ・タッチをしながらベンチへと戻って来た。
「和巳！ナイス・プレイ」
信也が我が事のように、喜んで山崎を出迎える。山崎もハイ・タッチで応える。
遅れて佳代も帰って来ると、
「澤田！お前の返球も良かったぞ」
信也が笑顔で言った。
佳代は照れたように赤くなった。それを見た直也がチャチャを入れる。
「まったく。練習でもあんなに上手くいった事無いのに。なあ！」
「うるさい！本番で上手くいったから良いでしょ」
皆がベンチで笑っていた。榊はそれを横目にしながら、〈この雰囲気なら勝てる〉と思った。
その時、山崎が榊のそばに寄って来た。