帰らざる日々-2
「い…いい加減にしてよ」
もがく亜紀。
「止まんないよ…こんなになってんだから」
亜紀の荒い息が、和哉の性欲を助長する。
和哉の手が亜紀のパジャマを捲り、乳房を掴んだ時、
「…止めて…く…口でしてあげるから…お願い…」
亜紀はその夜、和哉の欲望を何度も口で受け止めた。以来、眠る時、彼女は部屋に鍵を掛けるようになった。
年が経ち、2人共高校生になると、お互いを避けるようになった。
そして今、社会人となった和哉と亜紀は別々の場所で生活をしていた。
和哉はシステム・エンジニアとなり、あちこちの現場を飛び廻っていた。
亜紀は大手総合商社の総務課で、頑張っていた。
仕事を終えた和哉が、自分のアパートに帰りついたのは午後9時を廻った頃だった。
シャワーを浴びて、いつものように郵便物を見ていた時、携帯が鳴った。実家からだ。
通話ボタンを押すと、母親の弾むような声が聞こえた。
「亜紀がね、結婚するのよ!」
嬉しそうに言う母親に対して、
「そう。で、いつ?」
それだけ言うのが精一杯だった。だが、母親はそんな事も気づかないのか、快活に答える。
「さ来月の15日よ。アンタの礼服も用意しとくから、前日からコッチに寄りなさい」
「分かった…」
和哉はそれだけ言って電話を切ると、すぐに亜紀の携帯に掛けた。
数コールの後、懐かしい声が和哉の耳に響いた。
「亜紀……姉さん。結婚…するんだって?」
力無い和哉の声。
「うん。母さんに聞いたのね」
「ああ…」
そして、しばしの沈黙。
その沈黙を破ったのは和哉だった。
「おめでとう……」
それだけ言うと、一方的に電話を切った。
それ以上訊けなかったからだ。
それは亜紀も同じだった。切れた携帯電話を、いとおし気に指でなぞり、しばらく眺めていた。
それから、瞬く間に月日は流れた。和哉は仕事に駆け廻る日々を過ごし、亜紀も退職のための引き継ぎに忙しい日々を送っていた。
そして、亜紀の結婚式を2日後に控えた夜。
昼間は仕事にかまけている和哉。だが、ここ数日、夜になると、考えるのは亜紀の事だった。
〈亜紀が他人のモノになる〉
頭では分かっているが、どうしても納得出来なかった。
和哉は財布を握りしめると、部屋を後にし闇に消えて行った。