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送り火
【失恋 恋愛小説】

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送り火-1

世の中には、どうすることもできないことがある。願っても想ってもどうにもならない恋がある。
27歳。
13度目の失恋…
どうして、みんな私から離れて行くのだろう。
私は、真っ暗な部屋の中で缶ビールのプルタブをあけた。
水槽だけが、怪しげに光り、ポンプの音だけが無音の部屋の中にも時の流れがあることを教えてくれていた。
午前三時…
家にあったすべての缶ビールを飲み終えた私は、ゆらゆらとよろめくように歩き出した。
失恋の儀式。
通称、『恋の送り火』
彼との思い出の写真を炎の中に消してゆく。
古来より、お葬式は故人がいなくなったことを認識させるために行ったという。
私にとって、この送り火は私の前から消えていった者を再認識させるだけだ。
私は、戸棚からライターを取り出し、灰皿の上で写真に小さな火を付ける。オレンジ色に輝き、丸まり、黒く変色していく写真。
すべての終焉を飾る小さな炎。だが、それは明日からはまた変わらぬ殺伐とした現実が待っていることを意味している。
出来れば、送り火でその殺伐とした日々ごと燃やしたかった。
殺伐とした日々を燃やす業火。それは死だけだ。
苦しくとも、それが人生…
送り火は、人生の一瞬をリセットする効果しかない。
ため息が、一つ漏れた。
ふと、窓を見る。カーテンの隙間から洩れる白い光り。
灰皿の上の写真は、もう細かな塵になっていた。






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