カティリナ-1
数十年前、嬉しくてトガの裾を捲くり上げてのぼったフォロ・ロマーノの石畳の坂。辺りにひしめく荘厳な建造物は、先人達の偉大な功績を今に伝えている。
そう、私もこの丘に自分の名を冠した建物を造るのが夢だった。だが、今やそんな夢などどこにも存在しない。
私の夢は、元老院の本質を見抜いた時に終わっているのだ。
今や、元老院に市民の声は届かない。地中海を内海にした、あまりに広大になりすぎた国土。そして半ば世襲化した元老院にローマを任せる力などすでに存在しないのだ。
それに誰も気付かない愚かな元老院議員。護民官ですら今や元老院決議のイエスマンでしかない。
私は、ローマを愛するが故に声をあげたのだ。
それが、まさかこのようになろうとは…
忌ま忌ましい。キケロ。
その口でローマを牛耳ろうというのか。
私は大回廊を抜け、半円形に作られた議会に入る。
『昨日の友は今日の敵』
と古来より言われて来たが、誰ひとりとして私と目をあわすものはいない。
権力の奴隷…
そんな愚か者どもを信じた私もまた悲惨な愚か者だったのかもしれない。
議席に座る。
私が座るのをみると皆、一斉に自分の席に走った。なんと悲惨な。キケロは独裁官か?しかも終身の。ホントに共和制の議会なのかここは!あらゆる不満と国家の未来に対する不安が胸を駆け巡る中、キケロが壇上にあがる。
わかりきっている。私の批判だろう。今日はそれを聴きに来たのだ。
「カティリナよ!そなたが今日、議会に来るまでの間。そなたに挨拶をしたものがいるか?いないだろう。それが聡明で勤勉な元老院議員達の答えなのだ」
毎度毎度、泣かせるキケロ節だ。だが、いつの日かそう遠い未来ではないいつか、元老院体制は崩壊するだろう。
ルキウス・セルギウス・カティリナ
国を思うがための死だ。
完