ヒトナツ@-1
「よおっしゃああああ!」
駅までの緩やかな下り坂をダダダ、と勢いよく駆け抜ける。
「やあっほおおおおっ!」
真上で輝く太陽が、ジリジリとこの身を焦がし、じわりと汗が流れる。
ジーワ、ジーワ、と止まらない蝉達の大合唱が夏を際立たせる。
「人生のゴォォォォル!」
改札を目の前にして、軽やかにジャンプ。
くきっ
たしかにそう音が聞こえた。
「ぅあ……」
しっかり足首を捻って着地失敗。派手に転んだ。
「……はっ、ははっ!あっはっはっは!」
通り掛かる人々が訝しげに俺を見る。
そりゃ道端で大の字になって寝てるやつがいりゃあ、驚くわな。
でも、今はそんなこと気にしない。
ついに俺にも春が来たんだから。
「さっくらさああああん!」
眩しさを堪え、なんとか瞼を開くと、真上には旅客機が轟音を立てていた。
「……」
俺は真島健吾(まじまけんご)ハタチ。
ごく普通の大学生。
だがしかし!ただいま幸せ絶頂の俺。
だけど、まさかあの旅客機に“アイツ”が乗っているなんて思わなかった。
“アイツ”のせいで、俺の一夏はこんなに荒れたものになるとは。
このときは知るよしもなかったさ。
ヒトナツ
第一話
春夏到来
「お、おはよう桜さん」
「おはようございます、健吾くん」
この清楚で気品のある女の子が……あれ、清楚と気品て同じ意味だっけ?まあいいや、俺の人生初のカノジョ。
門宮桜(かどみやさくら)さん。
勿論、見てのとおりのお嬢様。
彼女は一年前に大学のキャンパスですれ違って以来の仲だ。