光の風 〈地球篇〉-9
「貴未…。」
日向は背中を預けるように貴未に寄り添った。いつのまにか彼の肩には動物に姿を変えた火の精霊・祷がいる。キースの横で守られている圭はそれに気付いた。
「これちょっとヤバいよね?」
「大分な。」
二人とも顔は笑ってはいたが、もちろん内心穏やかではなかった。貴未の中でいくつもの思いが巡る。その中でたった1つ既に決めている事があった。
「大丈夫だ日向。お前を無事に連れて帰ると約束した。」
「え…誰と?」
予想外の言葉に日向は思わず聞き返した。貴未は前を向いたまま笑う。
「オレと、かな。」
日向の質問に答えながらもキースと貴未の睨み合いは続いていた。少しずつ少しずつ貴未達との距離を縮めていく群衆達に追い込まれていく。貴未の頭の中は自問自答でいっぱいだった。
どうする?
いくら身の危険とはいえ相手に危害を加えることなんてできない。彼らは聖職者であり、何の否もないのだから。巡る考えの中で貴未の答えは決まった。
貴未は日向の腕をつかんだ。急な行動に日向の頭はついていけず、ただ驚いて貴未を見ていた。
「落ちるなよ?」
「え?」
その瞬間、自ら光を発し貴未の背中から白い翼が生えた。金色のような銀色のような光に包まれた貴未を、誰もが衝撃を受け言葉を無くしてただ見ていた。
やがて貴未の体が宙に浮く、誰もが飛ぶと予感した時だった。
「待って!!」
静かなざわめきの中を透き通るような声が抜ける。
声の主はキースの横でずっと物言わず立っていた圭だった。
「圭…?」
キースの声に目もくれず、圭はゆっくりと貴未の方へ近づいていく。この大きな部屋に彼女の靴音しか聞こえなかった。取り巻いていた群衆も何も言わず彼女に圧倒され道を開けていく。
圭は貴未を、貴未は圭を見ていた。
やがて圭は貴未の目の前に立ち止まり、黙って手を差し伸べた。
「どうぞ、ここへ。」
それは翼を広げ宙に浮き、まさに今旅立とうとしている貴未に向けた滞在の願いだった。
「私は貴方をずっと待っていた。」
圭の言葉に貴未は疑問を覚えた。
「オレを?」
圭は頷く。真っすぐな瞳は嘘を許さないものだった。
「私はマチェリラの魂を受け継ぐ者。時を越え、私は貴方を待っていた。」
「マチェリラ?」
「その翼は何よりの印。私が分かりますか?カリオ人・貴未。」
圭の言葉は波紋を生んだ。貴未はなぜ自分の正体に気付いたのか、周りの人間は貴未がカリオ人だという事に衝撃を受けていた。ゆっくりと体を地上に戻してゆく。地に足が着いた、それでも圭は手を差し伸べたままだった。