光の風 〈地球篇〉-7
「どなたかマチェリラさんと親しかった方はおみえですか?カリオについて何かご存じな方は?」
貴未の問いに青年は圭を見た。そして少女もつれて貴未に背を向ける。
「お待ちください。」
二人は中庭をまたぐ渡り廊下を抜けて奥に入っていった。残された貴未と日向は黙ったまま、彼らが消えた方を見つめている。
何が返ってくるのだろう、そんな事も考えないほどに無心だった。ただ青年を待つだけ。
しばらくして奥から青年が一人で戻ってきた。ほどよく貴未達に近付き手を出して彼らを誘導する。
「どうぞ、こちらへ。」
先に足を踏み出したのは貴未、日向はとまどいながらもそれに続いた。青年は前を歩き二人を導く。渡り廊下を歩き、隣の建物へと3人は進んだ。
階段を上った瞬間から一気に場の空気が変わった。床にはじゅうたんが敷き詰められ、背の高い窓が陽の光を招き入れる。まるで選ばれた人しか踏み込めないように、外の庭と違い開放的な空気などそこにはなかった。
二階の廊下の中程の、さらに上へと繋がる階段を3人は上った。1段1段上るごとに高まる緊張感は、この先に予想もしない出来事が待っているように思えた。貴未の体に自然と力が入る、いつのまにか拳は強く握りしめられていた。
階段を上った先には大きな扉が立ちふさがっていた。青年は扉を開け、貴未達を中に招き入れる。
「どうぞ中へ。」
貴未は前を向いたまま、意を決して足を踏み入れた。薄いレースのカーテンをくぐり、本当の意味で部屋の中に入った。
部屋の奥には大きな十字架が象徴として飾られていた。そのふもとには先程の少女と少し年を取った、まだ少女の父親と呼ぶには若い男が立っていた。
貴未達は言葉もなく、少しだけ彼らに近づいた。
「キース様、お連れしました。」
ここまで道案内をしていた青年はそう告げて扉を閉めた。この部屋の中にいるのは5人だけ。
「ご苦労だった。旅の方、今一度名乗っていただけますか?」
キースと呼ばれた男は落ち着いた口調で貴未達に語りかけた。貴未は彼を真っすぐ見つめたまま口を開いた。
「貴未、と申します。彼は私の連れで日向、突然の訪問で失礼致しました。」
貴未の言葉に男性は目をつむり静かに首を横に振った。
「マチェリラさんにお会いしたかったのですが…その、既に亡くなっていると先程伺ったもので。」
話の途中から貴未の表情が曇りはじめた。あらかじめ覚悟はしていたはずなのに、いざ突き付けられると切なくてどうしようもなくなる。そんな貴未の様子をキースはずっと見ていた。
「彼女とお知り合いですか?」
「はい、幼い頃に。」
貴未の返事に、そうですかとキースは呟いた。重い空気に貴未の不安は高まる。
「確かに幼い頃から彼女はここにいました。そう聞いています。」
妙な言い回しだった。少しずつ貴未の中で不安以上の違和感を覚えていく。