光の風 〈地球篇〉-6
「圭!」
遠くから男の人の声が聞こえた。少女はその声に振り返り、声の主を迎えた。
「圭、どうした…?」
やがて現れた声の主は、圭と呼んだ少女の向こうにいる貴未と日向の存在に気付いた。
「圭、こっちへ。」
自分の下に少女を呼び寄せ、青年は改めて貴未達を観察した。圭が警戒している様子はない、危害を加えられた訳ではなさそうだ。何より、二人の訪問者は茫然としているようにも見える。
「どうかされましたか?」
先に口を開いたのは青年だった。彼の腕の中で少女は守られている。
「失礼。…知り合いにその子が似ていたもので。」
青年の対応に貴未は不信感を持たれている事に気付き、あわてて気を引き締めた。あくまで、そこからは一歩も踏み込まず堂々と用件を告げる。
「私は貴未と申します。マチェリラ・ラウドベースさんにお会いしたいのですが、おみえですか?」
いつもと違う貴未の雰囲気に思わず日向は見とれてしまった。貴未の目はまっすぐに青年をとらえる。
青年の反応はあった。
しかし、その表情は複雑で傍らにいる少女を守る手に力が入る。
「マチェリラは…ここにはおりません。」
低く重い声が風に乗る。
「彼女は既に亡くなっています。」
目の前が真っ暗になった。やけに風の音が大きい、貴未は言葉も出なかった。ただ悲しそうに貴未を見つめる青年を、ただ見ていることしかできなかった。
希望の光はもう消えてしまっていた。
時間が経つにつれ、止まっていた思考が動きだし色々な思いがかけめぐる。いくつもの記憶、思い出せば思い出すほど切なさが込み上げてくるだけだった。
「…そう、ですか。マチェリラは…。」
反動的に口を手で覆った。どこを見ているか分からない目は、次第に涙を浮かべる。
分かっていた事だった、覚悟はしていたはずなのに。いざ自分の身に振りかぶってくると、こんなにも心は脆い。
故郷のことよりも、何より友人を失った事のほうが辛かった。あれから何年経ったのだろう、そんな事が頭の端によぎる。
「貴未。」
黙ってみていられずに日向は彼の名前を呼んでみた。その後押しがあってか、貴未は顔を上げもう一度希望の光を見つけるため青年に問いかける。