光の風 〈地球篇〉-5
「恐えなぁ。」
押さえきれない不安を少しでも和らげようと貴未は呟いた。苦々しくも笑う貴未に日向は強さと親しみを感じる。
「会えるといいね。」
日向は微笑む。その笑顔に貴未は落ち着きを取り戻せた。そうだな、と。笑った後の彼の視線はしっかりと前をとらえている。
「もうすぐだ。」
そう言った貴未の視線の先はこの街並の終点。丘の上の大きいとも言えない教会だった。昔からあるような年季の入った造りが歴史を感じさせる。
「ここはそんなに変化ないかな。」
少しでも自分に言い聞かせたいのだろう、強がった言葉に日向は思わず笑ってしまった。晴れた日の昼下がり、子供たちのはしゃぐ声が聞こえる。
あと少しで教会の敷地内に入る。
「ここ?」
足元の数歩先から煉瓦の道に変わる、そこが教会との境目だった。貴未は手前で足を止めた。まっすぐ教会をみて強く拳を握る、何回か深呼吸をした後に空を仰いだ。一番深い呼吸で気持ちを整える。
「よし。」
貴未は日向の心配そうな表情を見て笑い、Vサインをしてみせた。可愛らしい行動に日向は思わず笑ってしまった。
「行くか!」
一歩踏み出す、あとは自然と足が前に進んでいった。日向は貴未の後についていく。
煉瓦の道の周りには芝生が広がり、色とりどりの花が季節を感じさせていた。暖かい雰囲気に心を和ませるのは、今の二人には少し難しい事だ。
一歩一歩踏みしめた先、半開きの木製の扉に手をかける。力なく押した手からゆっくりと扉は音をたてて離れていった。そこは教会への入り口。
「うわぁ。」
感嘆の声をもらしたのは日向だった。表の花の並び以上にそこは緑や色とりどりの花で溢れていた。いま自分が緊張していたことさえ忘れてしまいそうなくらいの衝撃がここにはある。
「すごいね、貴未。」
「あぁ…。」
二人が言葉を交わした瞬間、人の気配がした。庭の奥からいくつくらいだろうか、まだ大人になりきれていない位の年令の少女が現れた。黒い髪、黒い瞳、鎖骨ほどに伸びた髪と白いラフなワンピースをなびかせ近づいてくる。
彼女を見て貴未の動きが止まった、目を大きく開き少女を見つめる。
「…マチェリラ。」
そう呟いたのを日向は聞き逃さなかった。思わず聞いたことがあるその名を抱えたまま、貴未の視線の先にある少女を見つめた。
この人が?そう口にしようとした瞬間だった。