光の風 〈地球篇〉-4
「ダメだ、これ以上踏み入れるな。オレはお前を殺さなければいけなくなる。」
カルサの小さくも力強く響いた叫び声に誰もが緊張した。冗談ではないのはカルサの顔を見れば分かる。
睨み合い、退かずに詰め寄ろうかとしたが、カルサの意志の強さに聖は勝てない。勢い良くカルサの胸ぐらを掴んでいた手を放した。
「くそっ!」
聖は叫び部屋から出ていってしまった。
「聖!」
彼の名を叫び紅奈も後を追って部屋から飛び出していく。部屋に残されたのはカルサとサルスの二人だけ、カルサの目は誰もを遠ざける悲しい色で染まっていた。
「聖!なぁ、聖て!」
歩いているのにもかかわらず聖の進む速さは紅奈を近付けようとはしなかった。走ってやっとの思いで聖の肩を掴む。
「待ってって!」
紅奈の手によって、ようやく聖は足を止めた。背中越しに息切れしている紅奈の存在を感じる。
「どないしてん、聖。あんたらしない。」
紅奈の言葉に聖は何も応えなかった。ただ背中を向けたまま、何も話さない。じきに息も整い、紅奈はため息を吐きながら聖の肩をぽんぽんと叩いた。
「うちの事か?」
聖の反応はない。頭の中でまだ整理がついていないのか、ただ話したくないだけなのか。
「なぁ、お茶でも飲みにいかへん?ナタルの様子でも見にいこ!」
話題を変え明るく振る舞う紅奈に聖は微笑んだ。気を遣わせてしまった、そう感じたのだろう。感謝の気持ちを込めて応えた。
「せやな。」
「決まり!ほな行くで!今日こそ意識戻るとええな。」
聖の反応に嬉しそうに笑う。軽く彼の背中を叩いて歩き始めた。先を歩く紅奈に聖はついていく。
彼らはまたいつもどおりの雰囲気を取り戻した。
「貴未の知り合いってどんな人?」
貴未にとっては懐かしい街並を歩きながら、二人は目的地に向かっていた。天気のよい昼下がり、賑やかな雰囲気が町を包む。シードゥルサの街並とはまた違う景色、服装や気候が違うからだろうか。
「マチェリラ・ラウドベースって人でさ、オレと同じ年くらいの女性なんだ。」
そう話した後、貴未は切なそうに笑った。
「時間の流れが違うから、今はどうか分かんねぇ。生きていたらラッキーなのかもな。」
もしかしたら、同じような年代のままかもしれない。でも年下かも年上かも、この世に生きていないかもしれない。そんな掴みきれない希望をめがけて貴未は足を進めていた。