光の風 〈地球篇〉-12
「貴未さん?」
問いかけに何の反応も見せない貴未を覗き込むように圭は名を呼んだ。
すまないと謝り笑ったが、彼女の横にいるキースが気になり思わず目をやった。本人はもちろん圭もそれに気付いた。
「キースの非礼はお詫びします。全ては私と教会と私を守るため、許してください。今も私を守るためにここにいます。」
圭は見た目からは想像できない程、落ち着いた口調で話した。それは上に立つ者の姿勢に似ている。
「君は…。」
驚きと、なんと言えばいいのか分からず言葉に詰まってしまった。ただ目の前にいる圭を見ていた。圭は微笑み、彼の言葉の続きをくんで口を開いた。
「私は姫巫女として、この教会を守護しています。」
聞き覚えのある単語に貴未は呟いた。
「圭はマチェリラ様の魂、というのもありますが…正確には扉を守っています。」
「扉?」
キースの言葉に貴未と日向は思わず目を合わせた。扉と聞いて思い描いたものは二人とも同じだったらしい。無数に並んだ扉のある空間、日向はそこを通ってシードゥルサへ辿り着いた。貴未はそこを自由に行き来することができる、日向はそれを知らない。
「カリオへの扉です。」
圭の言葉に貴未は思わず体を前のめりになった。むしろ立ち上がりそうになったと言った方が正解かもしれない。
圭と貴未は見つめ合ったまま動かなかった。
「やはり、それですか。」
先に沈黙を破ったのは圭だった。誰も口を開かず静かに圭の言葉に耳を傾ける。何も言えなかった。
「貴未、あなたは帰れなくなってしまったのですね…。」
腰を上げていた貴未の体から力が抜け、静かに崩れた。貴未の頭の中に何度も蘇る記憶、決して忘れることはない過去の戒めが縛り付けていた。
「なんで…。」
驚きを隠せない貴未に微笑むと、圭はキースに目で合図を送った。キースは頷き数歩下がって立ち上がる。
貴未達は突然動いた状況に、ただ見ているしかなかった。キースは頭を下げる。
「いきましょう、扉へ。ご案内致します。」
圭は貴未に申し出た。
「お願いします。」
貴未の返事を受け取ると、圭は微笑み立ち上がった。貴未がそれに続き、日向も続いた。彼の肩には依然、動物の姿を現した祷がいる。
キースを先頭に一同は目的地をめざした。とはいえ、部屋から出ることもなく、部屋の象徴である大きな十字架のふもとで足を止めた。
圭は地面に手を置き手を動かしている。後ろからでは何をしているのか分からず、貴未達は不思議そうに見ていた。