光の風 〈地球篇〉-11
「無茶なんてする訳無い。」
いつのまにか傍にいたラファルの体を愛しそうに撫でる。ラファルがいる事でカルサの心は何度も救われた。物言わぬ友人、それでもカルサにはラファルの声が聞こえていた。
「もういい加減、オレの戦場に行かなきゃな。」
まるで自分に言い聞かせるように口にした。
「千羅。」
カルサに呼ばれ、彼はすぐにその姿を現した。カルサの斜め前、いつものように片膝ついて頭を下げてカルサの声に応える。
「ここに。」
「頼みがある、今から言う人物を張ってほしい。」
「例の二人、ですか?」
千羅の言葉にカルサは頷いた。カルサと千羅、二人の視線がぶつかる。お互いにその表情はとても険しいものだった。
「分かりました。」
「…頼む。」
険しさがやがて切ないものへと変わっていく。それは二人にとって辛い選択である事を示しているのかもしれない。
千羅は立ち上がり、俯き加減のカルサに近付きそっと抱きしめた。
「おいっ!千羅なんだ!?」
突然の出来事にカルサは慌て、抱きつく千羅の体を放そうともがいた。
「ラファルの代わりさ。」
カルサは動きを止めてラファルを見た。まっすぐにカルサを見ている、とても穏やかな顔がカルサの瞳を潤した。
「ラファルがお前を抱きしめたがってる。」
ラファルは体をすり寄せてきた。千羅は体を放しラファルに譲る。カルサの手が千羅の腕から離れなかった。左手でラファルの体を抱きしめ、右手は千羅を掴んでいた。
「カルサ?」
ラファルの体に顔を埋めていたカルサの表情は千羅からは見えなかった。様子を伺うように顔を動かすと、少しだけ彼の表情が見えた。
それは照れ臭さが見えた表情。やがてカルサは右手に力をいれ、千羅を引き寄せた。千羅もラファルを抱きしめる。
暖かい空気に包まれた。確かな絆がそこにはあった。
「マチェリラに話とは何でしょうか?」
大きな部屋に圭の声が響く。結局あの騒動の後、圭とキースを残して群衆は去ってしまった。
ここは町の教会。古くからある為か、敷地は広かった。歴史がある分、それは建物の構造にも反映されている。いま貴未達がいる部屋も、ある種隠し部屋みたいなものだった。それにしても空気が違うのは不思議なものだと部屋の空気を感じながら貴未は思った。