光の風 〈地球篇〉-10
「何故それを?」
「言ったでしょう?私はマチェリラの魂を受け継ぐもの。幼い頃の貴方が見せてくれたでしょう?」
優しく微笑む少女、貴未はただ彼女を見ていた。まるで時が止まったように誰も動けずにいた。
貴未も日向も少女の瞳にすっかりとらわれている。
差し伸ばしたままの手は、いつしか貴未の腕を捕まえていた。
「なぁカルサ。」
二人取り残された部屋に響いたのはサルスの声だった。
「お前これからどうしていくつもりなんだ?」
聖達が飛び出した後、二人の間には沈黙の時間が流れていた。サルスにはカルサの考えが理解できなくなっていた。今回の封印事件によって知らないカルサの御剣としての姿を目の当たりにした。
彼の考えの表面しか理解できていない事をサルスは悟ってしまった。
「何を?」
「いろいろ、だな。」
聞かれた質問の内容の広さにカルサは、ふーんとだけ答えた。思った以上の手応えの無さにサルスは苦笑いをしてしまう。
空気は悪くない。まるで子供に難しいことを聞いてしまった時のような気分をサルスは味わっていた。カルサの表情は?マークがよく似合う。サルスが昔見た顔だった。
「そのうち分かる、オレの思いは動き始めているから。」
「思い?」
「そう、思い。きっと分かる。」
さっきまでは幼い表情を見せたかと思えば、今は優しく穏やかな表情をしてみせる。どちらがカルサの本質なのかサルスは迷ってしまう。まるで魅せられているような感覚がサルスの中で起こっていた。
「頼むから無茶な真似だけはするなよ?」
「分かってるよ。」
逸らさずに真っすぐ向けられる視線、サルスはそれを信じるしかなかった。立ち上がり何かを唱えると、たちまちに貴未へと姿を変えた。
「城内の見回りに行ってくる。」
カルサの頼むという声を背に貴未の姿をしたサルスは部屋から出ていった。それと同時にカルサから笑みが消えた。