『ゲームメイカー』-26
彼女はどんな欲望にも応え、いつでも望むままだった。注ぎ込めば注ぐ程、翠の躰は妖しい輝きを増していく。そして、いつしか俺の思考は止まり、魔性の肉体に溺れていった。
思考が爛れる快楽の日々。だがそれは、何の前触れもなく突然に終わりを告げた。彼女無しの生活など考えられなくなった頃、ふいに買い物に行くと言い残したまま翠は忽然と姿を消してしまったのだ。
いつもの笑顔のまま、買い物に出掛けた記憶しか思い出せないほどに普段通りの日常。
俺は激しく取り乱し彼女を探し、片っ端から病院に電話を掛けてみたが、身元不明な女性が運ばれたという情報を得る事はなかった。
何の手懸かりも得られずに悪戯に時間は流れて行く。実際、翠と過ごした日々は短かったが、濃密な関係を築くには充分だった。
少なくとも俺にとっては仕事も手に着かず、前後不覚に陥るほどに翠の存在は俺の中で大きなものになっていたのだ。
そんな状態で仕事が出来る訳もなく、無気力になった俺はとうとう仕事もクビになり家に篭りがちになった。
「翠……どこにいったんだよ……」
うわ言のように呟き、あの長い豊かな黒髪を求めて、俺は宛てどもなく街を彷徨った。
ある日、煙草を切らして外へ出掛けた俺は、偶然にも翠を見つけた。思わず、一気に色々な思いが溢れ出して走り寄ろうとしたが、ふと足を止める。無事でよかったけれど、何で連絡して来なかったんだろうかと。
更にその後の光景に俺は自分の目を疑った。彼女は後から来た見知らぬ男と腕を組んで無邪気に笑いながら歩き始めたのだ。
(そいつは誰だ!?お前の男は俺だろ!!)
錯乱状態のまま掴み掛ろうとしたが、状況がわからない事もあり、俺はなけなしの理性で踏み止まり彼女が一人になるのを待った。
しばらく後を付けていた俺は、もし翠が男と離れなければ今住んでいるところを突き止めるつもりでいた。万に一つの賭けではあったが、やがて翠は男と別れ歩き出す。
「翠……」
辺りに人がいないのを確かめて、俺が声を掛けると彼女は驚いたように振り返った。
(これでまた、あの日々がに戻るんだ。あんな男の事なんかどうでもいい。お前さえいれば……)
しかし、俺を見る翠の目は何かに脅えているようだった。
「どうしたんだ翠?俺だよ。心配してたんだぞ?」
彼女は僅かに首を振ると、突然身を翻し、駆け出した。
「ま、待てよ翠!どうしたんだよ!」
慌てて俺も後を追う。翠は時々振り返りながら、走り続けた。その足がふいに止まり、こっちの方を見る。
やれやれ……走るのをやめて俺はゆっくりと彼女に近付いていった。その時