『ゲームメイカー』-2
「よせって……礼なんかいらないよ。で、どこまで送ればいい?」
「それより……どこか連れていってくれませんか?どこでもいいんです」
「訳ありか?ま、いいさ」
俺はそう言ってアクセルを踏み、突然の同乗者を乗せたまま車を走らせ始めた。
「本当は、落ち着いた所で酒でも飲みたいトコだけど車じゃあな……」
小一時間ぐらい車を走らせていた俺は、途切れた会話の続きを取り繕うように何気なくそんな言葉を呟いた。
「じゃあ、あそこにしませんか?」
そう言って彼女が指差す先から、乱立するホテル街のネオンが視界に入って来る。
おいおい……マジかよ?
話が上手すぎると思いながらも沸き上がる下心に抗えず、俺はウインカーをつけてハンドルを切った。
………ガチャン………
適当に選んだ部屋の中に取り敢えず入ったが、入口からここまで隣の翠は終始、黙ったままだった。
「一応、男なんだがな俺は。知らねぇぞ?あんたみたいな美人と一緒で、どこまで紳士でいられるか……」
こんな所に来て、ただ酒を飲むだけでは済む訳がない事など彼女もわかっているはずだ。しかし念の為に遠回しに確認するように俺は呟いた。
「功刀さん……」
質問の答えなのか彼女は一言だけ呟いて俺の胸にしなだれかかってくる。了解の意味と取って構わない訳か……。だが、どうにも事が上手く運びすぎる気がしてならない。完全には警戒心を解かず、俺は翠の肩に手を回して動揺を隠して落ち着き払った振りをした。
「とにかく……まずは飲まないか?」
「そう…ですね……」
ネクタイを緩めながら俺が言うと、消え入りそうな声で翠は小さく答えた。
(ふう……)
上着を掛けてそのまま俺がソファーに腰掛けていると、冷蔵庫から缶ビールを持って彼女は隣に座る。手渡されたビールのプルトップを開けて、喉の渇きを潤すように口の中へ流し込んだ。そして、ひと心地つけてから俺は口を開く。
「無理に聞く気は無いが、何かあったのか?」
軽く探りを入れてみるとそんな俺の質問に、しばらく無言だった彼女は、やがてぽつりぽつりと話し始めた。彼氏と別れた事、自暴自棄になっていた事、そしてファミレスで絡まれた事を……