『ゲームメイカー』-18
ふう……結局、家に連れて来ちまった。この後どうする?……ま、考えてもしょうがないし、なるようになれだ。
床に座り、壁にもたれていた俺は疲れていたのか、いつの間にか寝てしまったらしい。ふと気付くと躰に毛布が掛けられている。肩に軽い重みを感じて横を向くと、俺の肩に頭を乗せたまま翠は安らかに寝息を立てていた。
「お前、何やってんだ?」
「ん……ダメよ…啓介さん。あんな格好で寝てたら風邪引いちゃう…」
驚いて尋ねる俺に寝惚けまなこで彼女はそう答える。
「そりゃわかったけど、何でココで寝てんだ?ちゃんとベッドで……」
「だって!……だって、淋しかったんだもん……ごめんなさい……」
こういうところが、たまんないんだよな……
甘えて我儘言う割には、俺を起こさないように気を遣う。そんな翠に知らず知らずに口許が緩む。
「わかったよ。俺もベッドに行くから……ほら、立って」
翠は立ち上がると、躰に巻き付けた毛布を引きずるようにして寝室へ歩いていく。先にベッドに横になると、端に寄って俺が潜り込める隙間を開けた。
「今日、泊まっていってもいいんだぜ?」
ベッドに入りながら俺は何気なく言ってみる。別に深い意味があった訳じゃない、何となく思った事を口にしただけだ。
「ううん……少し、休ませてもらうだけで……」
意外にも、彼女は申し出を断った。
「そうか……」
俺が目を閉じると、そっと翠が寄り添ってくる。しかしその躰は小刻みに震えていた。
「寒いのか?」
翠は無言で首を振る。しかし震えは止まらず、腕にまわした指先には力が込められていった。
「どうした?」
俺が身を起こすと、慌てて彼女は背を向ける。
「こっち向けって…」
肩に置いた手を振り払うように翠は拒む。それは初めて見せるはっきりとした拒絶だった。なおも無理矢理こっちを向かせると、濡れた瞳が俺を見つめていた。
「何故、泣くんだ?」
しばらく躊躇う仕草をした後、わなわなと震える唇がゆっくりと開いて言葉を紡(つむ)ぎ出していく。
「本当は泊まりたいの。でも、そうしたら離れるのがもっと辛くなっちゃう。次の日も、その次の日も、いたくなっちゃうの……だから……」
それで泣いてたのか……
俺は小さく息をつく。
(もう、いいよな?啓介……言っちまえよ…)
もう一人の自分(オレ)の声に後押しされるように俺はボソリと呟いた。
「いればいいさ……好きなだけずっと……」
俺を見つめる潤んだ瞳が、大きく見開かれていく。