『ゲームメイカー』-17
「こんなに感じ易い躰をしてるしな……」
俺は少し意地悪く言ってみる。昨日知り合ったばかりで、にわかには信じ難い。それが正直な気持ちだった。
「啓介さんのせいよ……あんな事言ったり、したりするんですもの……」
俺の?何かしたか?意味が分からず首を捻る。そんな様子を見て彼女は小さく溜息をついた。
「やっぱり気付いてないのね……あんなに優しくされたら、その気になっちゃうわ……」
「優しい?俺が?」
優柔不断とは言われ慣れてるけど、優しいなんて嘘だろ?
「始めは同情だけだと思ってた……」
そんな俺の思いをよそに彼女の台詞は続く。
「多分、あたしの勝手な思い込みかもしれない。でも、嬉しかったの……だから貴男が喜んでくれるのが嬉しい。感じてる顔を見るのが堪らないの……」
「よしてくれ、そんなご大層なモンじゃないぜ俺は。だけど疑って悪かったよ。まだ時間はあるんだろ?どこか行くか?」
「ん……でも、ごめんなさい。少し眠くなっちゃって……」
徹夜みたいなもんだったから無理もないか。欠伸(あくび)を噛み殺す彼女を見て俺はそう思った。どこかで休ますしかないか……でもどこで?いや、それよりも……
「なぁ…聞いていいか?ずっと気になってたんだけど、ちょっと出掛けるにしては大きなバッグ……ひょっとして……」
(行く宛て無いとか?)
そこまで言わなかったが恐らく図星なのだろう、俯いたまま翠は黙ってしまう。仕方ないな……俺は鼻を鳴らし、ポンポンと彼女の頭を優しく叩いた。
「着いたら起こす。少し寝とけ……」
そう言って見慣れた街並みへと車を向けた。
「着いたぜ、翠」
俺の呼ぶ声に眠たそうに瞼を擦りながら彼女は目を開けた。
「ここ……どこ?」
「心配すんな、俺ンちだ。起き上がれるか?」
寝起きでフラつく翠を支えるように部屋に入ると、そのままベッドまで連れていく。
「俺のスウェットで悪いけど、寝巻きがわりにしてくれ」
横たえた彼女の側から立ち上がり、据え付けのクローゼットの引き出しから服を取り出して彼女に渡しながら俺は言った。そしてついでに自分の着替えを手にすると、再び彼女の方を振り返る。
「ベッドは好きに使っていい。多少、煙草臭いかもしれないけど我慢してくれよな?」
「で、でも啓介さんはどこで寝るの?」
「適当に寝るから気にすんな。おやすみ」
そう言って俺は部屋を後にした。軽くシャワーを浴びて部屋着に着替えると、大きく伸びをする。