『ゲームメイカー』-15
「俺にもわからない……ただ、このまま帰したくなかった……」
「同情……ですか?」
呟くように翠が尋ねてくる。そうなんだろうか?俺の取った行動は翠が可哀想だと思ったから?
「違うな多分。そこまでお人好しじゃないぜ俺は……」
「じゃあどうして?」
どうして?……かぁ…フッと小さく俺は笑った。
「『一人にしたくなかったから』って言ったら、笑うかい?」
少しの間を開けて、彼女の表情は驚きの色に変わっていく。
「それって……あの…」
「あんまり真剣に取らないでくれよ。あんたの躰が忘れられないだけかも知れないしな……俺はさ、いい人なんかじゃないんだぜ?」
「躰?…あたしの?」
言葉を反芻しながら、翠は俺の顔を見ていた。俺の予想通りなら、ここで怒る彼女に冗談だと告げて笑い、軽く食事でもしてから駅で別れて……
正直言えば後味の悪い気まずさを拭いたかっただけだった。そう思いながらも俺は自問自答する。本当にそれだけが理由なのかと……
その事は今は考えないでおこう。そんな俺の予想に反して彼女の言葉は『啓介さんって彼女いるんですか?』だった。
「いたら、夜に一人で走ってる訳ないだろ?まぁ、ナンパ目的で流してた訳じゃないけどな……」
憮然とした顔で答えた後、気を取り直して俺が煙草を咥えてライターを探していると、不意に口から煙草が消えて代わりに柔らかい唇が押し当てられる。
突然の彼女の行動に俺が目を丸くしていると、ゆっくりと唇が離れて躰を預けるように寄り添う翠の重みが伝わってきた。
「啓介さんが……貴男が必要としてくれるなら、躰(それ)だけの関係でもいい……ただ……」
「ただ……何だ?」
首に回された腕に力が入り、耳元で喘ぐような翠の囁き声が響く。
「優しくしてください……」
「あ、ああ……」
「…ありがとう……」
吐息が耳に掛りぞくぞくする。どうしてこいつの声はこんなにも魅惑的に響くんだろう……甘えるように俺を見る漆黒の眼差し、下品になる一歩手前の鼻に掛る声、そして何よりも躰から漂う甘い香り。
………《媚薬》………
そんな単語が頭に浮かぶ。そう、彼女は媚薬みたいな女かもしれない。仕草一つ、言葉一つが俺の理性を失わせていき、急速に下半身に血が集まるのが自分でもはっきりとわかる。
俺の膝の上に座っていた彼女は、何かに気付いた様にこっちを向いて妖艶な笑みを見せた。
「こういうところに停めたのって……大胆なのね啓介さん」
「ち、違う!信じないかもしれないけど、俺は……」
誤解を生むには申し分のない状況に思わずうろたえてしまう。
「無理……してる?」
覗き込むように視線を合わせて悪戯っぽく翠は笑う。