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やっぱすっきゃねん!
【スポーツ その他小説】

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ICHIZU…F-8

(やけに遅く感じる…)

彼女にすれば4日前に目のあたりにした信也のストレートのイメージが強すぎ、遅く感じたのだ。

(引きつけて打とう)

再び打席に入る。2球目。今度はイン・コースの真ん中にきた。
右足を小さく踏み出す。上体を捻り後に残して。
ボールが近づく。腰を捻り、左足はつま先を起点にして大きく前方へねじり、上体を一気に回転させてからボールにバットをぶつける。
その瞬間、ボールの勢いに負けぬようゾウキンを絞るようにバットのグリップを握り、左腕で押し込んだ。

〈キンッ!〉

乾いた金属音を残して、打球はライナーでセカンドの上に飛んだ。セカンドはジャンプしてグローブを伸ばしたが、打球はわずか上を越えて、ライトの前にポトリと落ちた。

夢中になって1塁を駆け抜ける。
3塁ランナーがホームに生還した。

〈右適打。打点1〉この記録が公式な結果として載るのだ。もちろん本人はそんな事知らないが。

結局、なんの危ない場面も無く試合終了となった。23×対0。青葉中学は奪得点の新記録というオマケつきで完勝した。

メンバー全員がホーム・ベース位置にズラリと横に並び、校歌を聴いた。皆が笑顔を浮かべながら歌っていた。サード側の観客席でも笑顔で歌っている。
だが、そんな中で一人だけが歌っていなかった。佳代だ。

正確には歌っていないのではなく、歌えなかったのだ。

彼女は溢れる涙を堪えきれなかった。
中学に入学して1年余りの出来事が走馬灯のように頭の中を駆け巡った。
その自分が大会に出場し、勝って校歌を聴いている事に胸がいっぱいになって泣いたのだ。

かくして青葉中学は1回戦を突破した。


ICHIZU…F完


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