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やっぱすっきゃねん!
【スポーツ その他小説】

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ICHIZU…F-7

「今のストレート良かったぞ」

「それが…」

「どうした?」

山下は訝ぶかし気な表情で直也を見た。

「コントロール重視でいこうと思って力を抜いて投げたんだけど…腕の振りが良かったんだ」

山下は笑みを浮かべて、

「なんだ!そんな事か……力が抜けて肩の動きがスムーズになったんだろ。今日はそれでいこうぜ!」

山下はさっさと帰る。直也は帽子を被り直すフリをしてツバに書かれた文字に目を凝らす。
ふっ、と一息吐いてから帽子を被ると山下のサインを覗いた。

山下のサインは外のカーブ。直也のアゴから汗が滴り落ちる。唇は乾いて喉はカラカラだ。
直也は唇を舐めると、サインに頷いた。

さっきと同じように力を抜いてカーブを投げる。
ボールは一旦、浮き上がると、向きを変えて鋭角に落ちるとベース手前でバウンドし、山下のミットにおさまった。

(こいつぁスゲェや!変化球もキレてる)

思わぬ事からピッチングのコツを掴んだ直也は危なげ無かった。
牟田の2番、3番を凡打に取ると、安堵の笑みを浮かべてベンチに引き上げて来た。

「直也。今のは良いピッチングだったぞ!」

榊が笑顔で出迎える。

「あ、ありがとうございます!」
直也は喜びいっぱいとも言える表情で答えた。
榊にとってもそれは同様だった。信也の後を投げさせるのは、ひとつの〈賭け〉だった。もし、ここで打ち込まれでもしたら、この子はプレッシャーに負けて、立ち直るのに相当な時間が掛かるだろうと。しかし、それは杞憂に終わったようだ。

ベンチ前に全員が集まり榊と永井を囲む。

今度は永井が言った。

「澤田。ぼーっとしてたらイカンだろ。ランナー無しだから良かったものの」

「すいません!ついっ、嬉しくて…」

「嬉しいって、試合に出たのがか?」

「それもだけど…ボール捕れたのが嬉しくて…」

佳代の言葉に、皆が一斉に笑いだした。


4回ウラ。榊はいけると思ったのか、残り2人の控え選手も代打で使った。
結果、2点を奪ってなおワン・アウト、ランナー1、3塁で佳代に打席が廻ってきた。

ゆっくりと左打席をならす。さっきより大分落ち着いてるようだ。
いつものように左足で地面をかいて窪みをつくると、左足を窪みに埋めて広めのスタンスで構える。
牟田のピッチャーは3人目の2年生だった。
全体に力感の無いフォームで投げた。
外に外れるストレート。佳代は見送ると、打席を外して素振りをした。


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